第94章 聖なる夜の願い事
「……ゅり…っ朱里?」
「っ…あっ……」
(私ったら、またぼんやりして……)
信長様とフロイス様が心配そうに私の顔色を窺っているのを見て、考え事をしながら俯いてしまっていた顔を慌てて上げた。
「す、すみませんっ…また、考え事しちゃってましたっ」
「全く…貴様という奴は…急に黙るゆえ心配したではないか」
「ごめんなさい……」
何となく気まずくなってしまい、手のうちの『スノードーム』をゆらゆらと揺らしてみては雪の舞い散る様を見るともなく見ていた私に、フロイス神父は優しげに声をかけてくれる。
「奥方様、実はこの月の二十五日はまさにちょうど『イエス様の御降誕の日』なのですよ!この日は特別な礼拝を行い、信者の家々も家族が集まり特別な食事をいただいてお祝いをするのです。
『降誕祭』と呼ばれる特別な一日です。
実は、私はこの降誕祭の準備を手伝うために、こちらに参っているのですよ。
よろしければ、降誕祭の礼拝に信長様とお二人でお越しになりませんか?」
「降誕祭…ですか?それは…とても興味深いですけれど…」
(信長様はお祈りなどは興味がないと言われるから…どうだろう?)
信長の反応が気になって見てみると、予想に反して興味深そうに話を聞いている。
異国の文化や風習は目新しく、信仰の有無に関わらずどんなものでも信長の興味の対象になり得るのかもしれない。
「フロイス、その話、初めて聞いたぞ。もう少し詳しく聞かせろ」
こうなると信長の質問は、自身が納得するまで止まらない。
一度興味を持ったことについては、とことんまで突き詰めて調べねば気が済まない男なのだ。
(ふふ…子供のように純粋で好奇心旺盛な方だから…)
早速にフロイスを質問責めにする信長の隣で、朱里もまた初めて聞く降誕祭の話に耳を傾けながら、遠い異国の文化に想いを馳せるのだった。