第94章 聖なる夜の願い事
「それは分からんが…気になるなら、南蛮寺に行って直接見てみるか?」
「えっ?南蛮寺に?安土に行くのですか?」
「いや、さすがにこの忙しい時期に安土へ行く時間はない。秀吉も許さんだろう……が、南蛮寺なら城下にもある」
事もなげに言う信長に、朱里は驚きを隠せない。
(城下に南蛮寺がある?そんな話、初めて聞くんだけど!?)
「城下にあるって…私、知らなかったです」
「京や安土にあるものに比べれば、小さな建物だからな。城下の民達の間でも、神の教えとやらが広まっているらしい。まぁ、俺は政に口を出さねば、個々の信仰についてとやかく言うつもりはないが…どうだ?一度行ってみるか?」
「は、はい!行ってみたいです」
嬉しくて、思わず大きな声が出てしまう。
南蛮寺の荘厳な雰囲気、穏やかな声で語られる神父様のお話、祈りの場で奏でられる『おるがん』の音色、一心に祈りを捧げる民達の姿…それら全てが、私は好きだった。
信仰とは違う…吉利支丹になりたい訳でもない。
けれど、心が安らぐ大好きな場所だった。
「ありがとうございます、信長様。嬉しいです!」
「ふっ…大袈裟な。まぁ、俺も気にならんわけでもないしな」
玻璃の置き物を陽の光にかざして、舞い落ちる粉雪を眩しそうに見ながら、信長は口元に愉しげな笑みを浮かべていた。