第94章 聖なる夜の願い事
昨日に引き続き、今日も秀吉さんと蔵の整理をしていた私は、ちょうど休憩時間になったので、執務中の信長様のところへ行ってみることにした。
お茶とお菓子を持って執務室を覗くと、信長様は報告書に目を通しておられるところだった。
「信長様、お疲れ様です。お茶をお持ちしました。少し休憩なさいませんか?」
朱里が声をかけると、信長は読んでいた報告書から顔を上げる。
「今日のお茶菓子は『豆大福』ですよ!見て下さい、豆がたくさん入ってて美味しそうでしょ?」
朱里が差し出す豆大福がのった皿を、チラリと横目で見た信長は、フッと口元を緩める。
(ふふ…よかった。豆大福、喜んで下さったみたい)
餅に、煮た赤えんどう豆を混ぜて餡子を包んだ豆大福。
餡子の材料である小豆は、初秋に収穫されたばかりのものだ。
塩を少し多めに加えた、この塩豆大福は、餡子の甘みがより引き立って、また格別に美味しいのだ。
「ん、美味い」
皿の上から無造作に豆大福を摘んだ信長は、ぱくっと食らいついて嬉しそうに言う。
「塩気がより甘さを引き立てている。だが、甘過ぎるわけではなく、丁度良い」
「ふふ…気に入っていただけて良かったです」
満足げにお茶を飲む信長様を見て嬉しくなった私は、自分も豆大福を口にする。
「んーっ、ほんと美味しいっ!」
餡子の甘さはもちろん、ゴロゴロ入った豆の食感もいいし、お餅も柔らかくて美味しい。
大き過ぎず、食べやすい大きさに作られているので、何個でも食べられそうだ。
口をもぐもぐしながら大福を堪能している私を、お茶を啜りながら見ていた信長様だったが、ふっと口元を緩める。
「朱里、付いてるぞ」
「……えっ?」
不意に伸びてきた信長様の細い指先が、私の口の端をすっと撫でていく。
「っ…うっ、ん…?」
「くくっ…唇の端に餅の粉がついておった」
「やっ…す、すみません……」
(は、恥ずかしっ……信長様ったら、口で言って下さればいいのに)
信長の指先が触れたところが、途端に熱くなったような気がする。
唇に指先が触れただけなのに、じんわりと身体の奥が熱くなり、居ても立っても居られなくなる。