第94章 聖なる夜の願い事
信長様にゆっくり休んでいただくためにも、今宵は流されてはいけないと身を硬くする私を、信長様はしばらく黙って抱き締めたままだった。
やがて、ふぅっと大きな溜め息を吐くと身体を離し、寝台の上にゴロンっと横になる。
「…信長様?」
そおっと身を寄せた私を胸元に引き寄せて、優しい手つきで髪を梳いてくれる。
「こうしてくっついて寝れば、貴様の身体も少しは暖まるだろう?朝までこのままでいろ。貴様を抱いておらねば、俺はよく眠れん」
そう言うと、プイッと拗ねたように顔を背ける。
「はい。朝までお傍におりますから、ゆっくり眠って下さいませ」
胸元に頬を擦り寄せると、トクトクと規則正しく響く心の臓の音がして、私もまたゆっくりと目蓋を閉じた。
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翌朝、私が目を覚ました時、信長様は珍しくまだ眠っておられた。
寝所に柔らかな朝の光が射し込む中、腕の中から見上げると、穏やかな寝息が聞こえてきて、ホッと息を吐く。
(よく眠っておられるみたいでよかった。起こしてしまうと悪いし、もう少しこのままでいようかしら)
信長様を起こさぬよう、できるだけ身動ぎしないようにして、そっとその寝顔を見つめる。
穏やかに眠られる日が増えたとはいえ、私より先に起きておられることが多い信長様。
私が目覚めるといつも、とっておきの笑みで迎えてくれる。
こんな風に、私が信長様の寝顔を見られる朝は珍しい。
(寝顔も素敵…見惚れちゃうな。唇もすごく綺麗…)
「………んっ…朱里っ…」
「……!?」
信長様の唇に見惚れていた私は、急に名を呼ばれて焦ってしまう。
目覚められたのか、と慌てて表情を窺うが、その目蓋は閉じたままで、私の名を呼んだはずの唇も、今は固く引き結んだままだった。
(寝言…かな?夢でも見ておられるのかしら…っ…ひゃっ…)
ぎゅうっと、私を抱き締める腕に力が籠り、信長様の身体が密着する。こうなるともう本当に動けなくなってしまった。
(っ…ちょっと苦しい。もしかして、信長様が目覚められるまでこのまま…?嬉しいけど、心の臓に悪いな)
ぴったりと密着した身体からは信長様の体温が感じられて、我知らずドキドキしてしまう。