第94章 聖なる夜の願い事
「………朱里?どうした?疲れたか?」
様々なことを取り止めもなく考えていた私は、片付けをする手が止まってしまっていたらしい。
心配そうに顔を覗き込んでくれた秀吉さんの声に、はっと意識が浮上する。
「ご、ごめん、秀吉さん。ぼんやりしちゃってた。でも大丈夫、疲れてないよ」
「そうか?疲れたら、そう言えよ」
「ありがとう!まだまだ平気だよ…っと、次はこれかな?…ん?これ、何だろ?見たことない形だけど、異国のものかな?」
沢山の箱の中に埋もれるようにして置いてあった小さな箱の中には、見たこともない不思議な置き物が入っていた。
「うわぁ…綺麗っ!これ、玻璃でできてるのかなぁ…わっ、中に水?入ってるよ!わぁ…動くんだ、これ…えー、何これ??」
それは初めて見るものだった。
透明な玻璃でできた丸い器の中には、小さな人形やキラキラと輝く飾りのようなものが置かれていて、水のような液体で満たされている。
手に持って、ふるふるっと振ってみると……
「わっ!見て、秀吉さん、これ、振ると雪が降ってるみたいに見えるよ!粉雪が舞い散ってるみたいで、すっごく綺麗っ!」
「おおっ…本当、雪みたいだな!って、何だこれ?こんなもの、献上品の中にあったのか…異国の置き物みたいだけど…どういう仕組みだ、これ?」
秀吉さんもまた初めて見るものらしく、上からみたり横から見たりと、興味津々な様子だ。
信長様への献上品は、予め全て厳重に調べられてから信長様の手に渡るようになっている。
常に暗殺の危険に晒されている信長様をお守りするため、秀吉さんは献上品には必ず目を通しているはずだが、この置き物は秀吉さんも記憶にないらしい。
「この人形はなんだろう?物語の一場面みたいだけど…異国のお話なのかな?何のお話なんだろう…?」
「う〜ん、雪が降ってるってことは、冬の物語なのか?さっぱり分からねぇ…」
「信長様はご存知なのかな?ねぇ、秀吉さん、これ、ちょっと借りてもいい?」
ふるふると振っては中の粉雪を舞い降らせながら、朱里はうっとりとその様子を見る。
(こんな綺麗なもの、初めて見たな。蔵の奥に仕舞っておくなんて勿体ない…信長様にもお見せしよう。きっと興味を持たれるに違いないわ)
思いがけず美しい宝物を見つけて嬉しくなった私は、信長様の反応を想像して益々楽しくなっていた。