第94章 聖なる夜の願い事
朝餉を済ませた後、私はお城の蔵へと足を運んだ。
季節は師走に入ったため、秀吉さんと相談して、少し早いが大掃除を兼ねて蔵の整理をしようということになったのだ。
大坂城の蔵は非常に広く、数も一つではないから、整理をするのは非常に骨が折れることだった。
信長様の元へは毎年沢山の献上品が送られてくる。
信長様はそれらのほとんどを褒美として家臣達に分け与えておられたが、それでも数はどんどん増える。
信長様は元々、物欲が薄く物に執着しない御方ではあるが、異国の珍しい物には目がない。
皆、それを分かっているらしく、最近は献上品も異国の品物が増えていて、大坂城の蔵は見たこともない珍しい品々で溢れかえっていた。
「はぁ…久しぶりに見たけど、すごい数だねぇ」
「毎年増える一方だからな。贈られてくる都度、整理してはいるが、最近はそれも追いついてない感じだな。戦も減ってるから、褒美として与えるにも限りがあるしな」
「戦がないのはいいことだけどね」
信長様の手腕で日ノ本の統治は整いつつある。
戦が減って、戦で命を落とす者が減ることは喜ばしいことだ。
けれど、今度は戦が完全になくなった後の武士達の在り方を考えねばならなくなっていた。
織田軍の多くは完全な武士で構成されている。
他国の軍の足軽の多くが農民で、戦のない時は農作業をしているのに反して、織田軍は農民と武士はある程度分離しているのだ。
他国は農繁期には戦は出来ない。戦が長期戦になっても、田植えや稲刈りの時期になれば兵を引かざるを得ないのだ。
兵を引かねば、田畑が荒れる。田畑が荒れれば民達の生活が立ち行かなくなり、人心が荒れ、ひいては一揆が起こりかねないからだ。
戦一つするのも城主の勝手にはいかないのだ。
だが、織田家ではそういった心配なしに兵を動かせるように、信長様が軍を整えられている。
ゆえに織田軍は、信長様の命を受けて迅速に動くことができるのだ。
しかし、戦時なら理想的なこの兵農分離だが、いざ戦がなくなり太平の世になれば、武士達の存在意義が薄れるのが悩ましいところではあった。
平和な世が訪れることは望ましいけれど、その先の日ノ本の在り方を定めていくことはとても難しいのだ。
(信長様は遥か先まで見据えて動かれる御方だけれど……今は何をどんな風にお考えでいらっしゃるのだろうか……)