第3章 本当の気持ち
天主まで一直線に駆けてきて息が上がった私は、襖の前で呼吸を整え、緊張を隠せない固い声で襖の奥に声をかける。
「信長様、朱里です。入ってもいいですか?」
……声をかけるが襖の奥から答えはない。
(もうお休みになってしまわれたのかしら)
「信長さま?」
もう一度小さく声をかけ、そっと襖を開けて中を伺う。
「…朱里か?入れ。ここだ」
室内はてっきり薄暗いと思っていたのに、予想に反した明るさに思わず目を瞬く。
見ると天主の張り出しに続く障子が全て開け放たれ、そこから丸く明るい月が光をさしいれていた。
信長様は張り出しの床に胡座をかき、一人お酒を飲んでおられた様だった。
月明かりの下で見る信長様は冴え冴えと美しくて、杯を口元に運ぶ仕草が妙に色っぽく、それだけで心臓がドキリと跳ねた。
「今宵は月が美しい。貴様もこちらに来て一緒に愛でよ」
「っ、はい…」
緊張してもたつく足をゆっくりと運び、信長様の横に腰を下ろす。
腕の包帯が目に入り、痛々しさに胸が痛む。
「お怪我…痛みますか?」
「……そうだな、痛むな。ズキズキと、な」
信長様は口元を歪め妖艶に笑みながら、私の目をじっと見つめる。
「家康に痛み止めか何か薬をお願いしましょうか?私、行って、っ、あっ…」
立ち上がりかけたその時、腕を強く引かれる。
気が付けば私は信長様の胸に抱きすくめられていた。
真紅の瞳が獲物を捕らえた鷹のように、私を捉えて離さない。
「薬は貴様自身だ。貴様のこの唇で俺を治療せよ」
耳元で低く甘い声で囁かれ、背筋がぞくっと震える。
親指の腹で下唇をツーっと右から左に撫でられて、お腹の奥がキュッと熱くなったのが分かる。
そのまま性急に唇を重ねられ、奥まで深く貪られる。