第93章 緋色の恋情
熱く柔らかい唇の感触。
口づけるために身を伸ばしたことによって湯船から露わになる肌。
瑞々しく湯を弾く信長様の引き締まった体躯にドキドキしながらも目が離せない。
心の臓が煩く騒ぐ中、吉法師を抱く腕が思いがけず揺らいでしまい、慌てて抱き直した。
「ひゃ、あっ…急に、な、なにを…!?」
「ふっ…酒の礼だ。遠慮せず取っておけ」
ニッと悪戯っぽく口角を上げて言われ、かあっと顔が熱くなる。
突然の口づけは、それ以上深められることはなく、信長様の唇はさらりと離れていったが、私の手の甲にはその熱さがいつまでも残っていた。
「っ…もぅ…お礼だなんてそんな…」
(こんなお礼…貰い過ぎです、信長様…)
色気たっぷりの信長様を恥ずかしくてまともに見られないまま、私は逃げるように部屋へと戻ったのだった。
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温泉をじっくり堪能して温まった身体を部屋で休めていると、夕餉の時間になった。
「わぁ…すっごく美味しそう!」
「山で採れるものが中心ですので珍しいものはありませんが、どうぞお召し上がり下さい」
宿のご主人が運んで来てくれた夕餉の膳は、山の幸がふんだんに使われた心づくしのものだった。
「信長様っ、見て下さい!キノコ料理がこんなに色々と…初めて見るキノコもありますよっ!」
キノコが好きな私は、キノコづくしの膳の中を見て嬉しくなってしまう。
「くくっ…そんなに好きなら俺の分も少し分けてやる。遠慮せず好きなだけ食え」
「やっ…私、そんな食いしん坊じゃないですよ?」
と言いつつも、信長様がさっさと取り分けてくれたものはちゃっかりいただいてしまった。
「んーっ、美味しいっ!どのお料理も素朴な味でいいですね…ん?あれ?これ、なに…?」
見れば、皿の上に、見慣れない形のものが乗っている。
からりときつね色をした揚げ物…衣のついた天ぷらのようだが、その形はまるで……
「……葉っぱ!?」