第93章 緋色の恋情
それから数日後、澄み渡る秋晴れの空の下、私達は紅葉狩りへ行くために馬を歩ませていた。
といっても、赤子の吉法師がいるため、私は塗輿に乗っており、結華は信長様の馬に乗せてもらっている。
(信長様と一緒に馬に乗りたかったけど、吉法師がいるから仕方ないよね…)
塗輿では景色が見づらく、山々の美しい風景を楽しめないのが残念だったが、吉法師は本格的な外出は今日が初めてであり、一緒に馬に乗るのはさすがに無理があったのだ。
(紅葉は着いてからのお楽しみに取っておこう。どんな所なんだろう…楽しみだな)
今日これから行く地は『箕面』という名の地だそうだ。
箕面はこの辺りでは紅葉の名所として古くから有名な地で、特に『箕面大滝』という滝がある所では、真っ白な滝の飛沫に紅葉の紅い葉が見事に映えて、思わず息を飲むほどの美しさだと言われているらしい。
信長様は大坂に城移りされてから、領地の地形を把握するために視察や鷹狩りなどを頻繁に行われている。
ゆえに、この辺りの土地のことにもお詳しいようだった。
「……朱里」
「信長様?」
輿の外から信長様の声が聞こえて、ハッと顔を上げる。
吉法師は輿の揺れが心地良かったのか、腕の中でスヤスヤと眠っており、私もつられてウトウトしてしまっていたようだ。
「もう間もなく滝に着くぞ。疲れてはおらんか?」
「はいっ!大丈夫です」
「吉法師はどうしておる?」
「吉法師は眠っています。ふふ…初めて輿に乗ったのに、ぐずることもなくて、すぐに寝てしまいました。肝が据わっておるのでしょうか…さすがは信長様の御子ですね」
「くくっ…それなら馬に乗せてやってもよかったな」
「ふふ…」
顔が見れないのは少し寂しいが、信長様と道中こうして他愛ない話をしながら旅をするのは楽しい。
「信長様、結華はいい子にしてますか?」
「ん?あぁ…「母上っ!お外、すっごく綺麗だよ!赤とか黄色とかいろんな色の葉っぱがいーっぱいなのっ!」
信長様の声を遮るようにして結華の元気の良い声が聞こえてくる。
随分と、はしゃいでいるようだ。
「母上っ、着いたら、一緒に葉っぱたくさん拾おうね!あっ、どんぐりも!」
「ええ、ふふ…楽しみね」
結華の楽しそうな笑顔が思い浮かんで、思わず私も頬が緩む。
自然の中で見るものは全てが目新しく、興味が尽きないのだろう。