第93章 緋色の恋情
「無論、子らも連れていくぞ」
「ええっ、いいんですか?」
子供達も一緒に連れていけるなんて、それこそ予想もしていなかった。
信長様のことだから、二人きりで、と言われると思っていたのだ。
(いや、それはそれで嬉しいのだが…)
(これって、家族で温泉旅行ってやつ?どうしよう…凄く嬉しい)
温泉も紅葉狩りも、行きたい気持ちがあったけど自分からは言い出し難かった。
それを信長様が提案して下さったことが嬉しい。
お互いの気持ちが通じ合ったような気がして、胸が熱くなる。
「城からは少し離れているが、見事な滝があって紅葉が美しい地がある。湯に浸かりながら紅葉を愛でるのも悪くないな」
「わぁ…楽しみです」
お城の庭の紅葉も美しいけれど、やはり自然の中で見る紅葉の美しさには敵わないだろう。
信長様と子供達とでお出かけができると、想像するだけで気持ちが華やいでくる。
「ありがとうございます、信長様」
「ん…貴様は放っておくと頑張り過ぎるからな。子供らが一緒ではかえって落ち着かんかもしれんが、少しでも息抜きになると良いな」
「はいっ!」
嬉しかった。家族で出かけられるということもだが、何よりも信長様が私を気遣って下さるその気持ちが、嬉しかった。
「信長様っ、ありがとうございます……大好き」
「なっ……」
またも不意打ちのように『大好き』と言われたことに、信長は、らしくもなく動揺する。
思えば、朱里はいつも恥ずかしがって『好き』とか『愛してる』とか、そんな言葉は面と向かってはあまり言わない。
(閨の中では、感極まってうわ言のように言うこともあるが…あれは無意識なのだろうな。あの艶めかしい声で言われるのも唆られるが……こんな風に『好き』と言われるのも、悪くない)
「朱里っ…」
「えっ…わっ!の、信長様っ!?」
手を伸ばし朱里の身体を引き寄せると、その腕の中の吉法師ごと背中から抱き締める。
「ちょっ…危ないですよ、吉法師を抱いてるのに…」
「はっ…潰しはせん。二人とも大人しく抱かれていろ。全く…貴様が愛し過ぎて…堪らん」
「やっ…そんな…あっ…」
ふわりと柔らかく包み込むような信長の腕の中に我が子とともに囚われた朱里は、信長の突然の抱擁に戸惑いながらも、湧き上がる満ち足りた想いに身を委ねていった。