第17章 戦場
「朱里っ!御館様たちだ!帰って来られたぞ!」
秀吉さんが指差す先を見るけれど、軍勢の姿はまだ見えない。
馬の蹄の音と無数の足音が、遥か遠くから微かに聞こえてくるだけだ。
精一杯背を伸ばして遥か先に目を凝らすけれど、ぼんやりとしか見えない。
もどかしく思っていると、ふと近くに物見櫓があるのに気付く。
考える前に身体が動いて、裾が乱れるのも気にせずに物見櫓に駆け上がる。
「っ、あっ、おい、朱里!待てって」
秀吉さんが慌てて止めようとする声が聞こえたけど、動き出した足は止まらない。
櫓のてっぺんに上がって下を見ると、長々と続く隊列とその先頭に立つ漆黒の甲冑を着た信長様の姿が見えた。
(信長様っ…ご無事でよかった)
こちらに気付いたのか、信長様が上を見上げたのが遠目から分かる。
と、いきなり馬に鞭を入れて速度を上げ、一人隊列から飛び出す。
城までの道を真っ直ぐに駆け抜け、あっと思う間もなく城門を通り抜けて、物見櫓の下で馬を止める。
「朱里!貴様、何をしておる」
「っ、お帰りなさいませ、信長様っ!」
「ふっ、櫓に駆け上がるとは……じゃじゃ馬め。降りて来い!」
「っ、あ、あの……勢いで上ったんですけど……怖くて降りられない、です…」
「くくっ、仕方のない奴め」
信長様はそう言って笑いながら、櫓に上がってきて私を抱きかかえて降ろしてくれる。
「うっ、ごめんなさい…きちんとお出迎えしようと思ってたのに…」
「ふっ、貴様はやることなすこといちいち愛らしいな。
しかも今日は……一段と美しい」
艶めかしい目でじっと見つめられて、身体の奥が熱を上げる。
信長様の顔が近づいてきて、口づけを交わそうとした、その時…
「っ、あ〜、ごほぉん。
御館様、お帰りなさいませっ!ご無事のお帰り、終着至極で御座います!……このようなところで立ち止まられますと、兵達が困りますので、続きは中でお願いしますっ」