第92章 帯解き
「私…寂しかったのです。あの夜、久しぶりに貴方に愛されて蕩けるように幸せだった。心も体も貴方と繋がることができて、本当に満たされた夜だった。それなのに…それが貴方の記憶に残っていないことがひどく寂しくて、やるせなくて…それだけだったのです」
「っ…朱里っ…」
「過ぎてしまったことを責めても詮ないことだと、分かっています。これは私の気持ちの問題で、信長様は悪くない…って、きゃあっ!」
言い終わる前に、信長様は私の身体を横抱きに抱き上げていた。
そのまま、有無を言わせず私を抱いたまま、ズンズンと歩き始める。
「の、信長様っ…?」
「続きは褥の中で聞く。全く…貴様は愛らしいことばかり言うから……困る」
腕の中から見上げた信長様の耳朶が、ほんのり赤く染まっている。
互いに言葉を発せぬまま寝所の間へ移動すると、寝台の上に優しく降ろされた。
「朱里っ…」
すぐさま信長様の身体が覆い被さってきて、広い寝台の上に組み敷かれる。
ギシッと寝台が軋む音がひどく艶めかしい。
「あっ…待って、信長様っ…先にゆ、湯浴みを…」
半日馬の背に揺られて、汗も掻いたし、何となく髪や身体も埃っぽい。
着物も、ここへ着いた時のまま、馬乗り袴のままでは女らしさのカケラもなく、気恥ずかしかった。
「必要ない」
「で、でも…私、こんな格好で…恥ずかしいです」
「案ずるな。気にせずとも、すぐに脱がしてやる」
ニヤッと悪戯っぽく笑むと、一切の躊躇いなく袴の腰の部分の結び紐に手を伸ばす。
慣れた手つきで結び目を解いていく信長様を制止しようと手を伸ばすも、捕らえられて頭の上に縫いとめられてしまう。
「大人しくしておれ。この格好は恥ずかしいのだろう?ならば、俺が恥ずかしくない格好にしてやる」
「やっ…そんな…」
(嘘っ…もっと恥ずかしい格好にさせるくせに…)
あっという間に紐を解かれて、腰回りがゆったりすると同時に、背中に信長様の手が回る。
「朱里、少し腰を浮かせよ」
言われた意味を理解して、恥ずかしさに顔に熱が集まった。
(んっ…脱がされちゃう…)
命じられたとはいえ、自分から腰を浮かせるなんて、脱がして欲しいと強請ってるみたいで恥ずかしい。