第92章 帯解き
二人して栗饅頭を頬張りながら、朱里が淹れてくれた茶を飲む。
「んー美味しいっ!やっぱり秋は美味しいものが沢山あるよね。昨日の宴での政宗のお料理も、凄く美味しかったし」
美味しそうに菓子を食べる姿は楽しげで、信長と何か諍いがあったようには見えない。
これは聞いてもいいものかどうか、と揺らぐ気持ちを抱えたまま、秀吉は半ばうわの空でぼんやりと茶碗を口に運び……
「うわっ、熱っちぃ!」
「わっ、秀吉さん!?大丈夫?」
油断していて茶の熱さに飛び上がる秀吉に、朱里は慌てて手拭いを差し出す。
「もぅ、ぼんやりしちゃって…ふふ…秀吉さんらしくないね」
「わ、悪い…」
秀吉は焦りながらも、濡れた口元を拭ってその場で居住まいを正すと、意を決したように口を開いた。
「朱里、あのな、怒らないで聞いてくれよ。昨日はその、御館様と何かあったのか?そのぅ…喧嘩、とか?」
「えっ!?」
「今朝の御館様、ひどく機嫌が悪かったんだ。二日酔いらしいけど、そのせいだけじゃないみたいだった。お前、今朝、俺が行った時、天主にいなかったろ?何かあったんじゃないかって心配でさ」
「秀吉さん……」
「俺でよかったら相談に乗るぞ」
優しく包み込むような秀吉さんの言葉に、ジンっと胸の奥の方が熱くなる。
(秀吉さんにまで心配かけちゃって…私、ほんと何やってるんだろう。でも、まだ上手く気持ちの整理が出来てないし…)
いくら秀吉さんが兄のような存在だとはいえ、さすがに閨事の話まで相談してしまうのは気が引けるし、何より信長様にも悪いだろうと思う。
「ありがとう、秀吉さん。心配させちゃってごめんなさい。信長様とは…ちょっとすれ違っちゃっただけだから、ちゃんと自分で話すよ。大丈夫…だから」
「朱里……」
それでも心配そうに私を見つめる秀吉さんの視線には心の奥が痛いぐらいに締め付けられてしまい、どうしていいか分からぬままに私は秀吉さんと目を合わせることが出来なかったのだった。