第92章 帯解き
(信じられないっ…覚えてない、ですって!何なのよ…あ、あんなに意地悪に私を責めておきながら…)
天主を出て階下へと階段を足早に下りながら昨夜の濃密な愛撫と意地悪な責めを思い出してしまい、身体がかあっと熱を帯びる。
お腹の奥がじゅくっと疼いて腰の辺りが甘く震える。
「っ…あぁ…んっ…」
まだ柔らかい秘部からトロリと蜜が湧き出たのを感じて、思わず足を止めた。
身体はまだ、昨夜の濃密な交わりを忘れられずに蕩けたままだった。信長様の熱もそのカタチまでも、身体の奥にはっきりと残っている。
今、もしまた甘く迫られたら容易にぐずぐずになってしまいそう…そんな風に思うぐらいに満たされた夜だったのに……信長様はそうじゃなかったの?
久しぶりの交わりがお酒に酔った勢いで…そう思うと何だかひどく虚しくなってしまう。
愛された行為は同じでも、それは少し切なくて何とも言えない気持ちだった。
奥御殿へと続く長い廊下の上で立ち止まってしまい、俯いてじっと自分の足元を見ると、乱れた裾が目に入る。
衝動的に寝所を飛び出して、そのまま天主から下りてきてしまった。襦袢一枚のあられもない格好のまま出てきてしまった自分に気が付いたが、今更戻るわけにもいかず、どうにもできないまま申し訳程度に襟元をきゅっと合わせて、とぼとぼと歩き出す。
「はぁ……」
(私、何やってるんだろう。勝手に飛び出してきてしまって……信長様もきっと呆れていらっしゃるわ…)
幸せに浸りきっていた心が、ゆらゆらと揺らぐ。
些細なことで機嫌を損ねてしまった自分を恥ずかしいと思う気持ちもあったが、それでもやはり何とも割り切れなかった。
心も体も満たされた幸せな夜だったからこそ、それが信長の記憶に残っていないことが淋しくてやりきれなかったのだ。
(信長様に寄り添って目覚め、たっぷり愛された余韻に浸りながら一緒に朝を迎えたかっただけなのに…)