第92章 帯解き
いつもなら起き上がってすぐに抱き上げてやるところだが、酒の残る気怠い身体は、赤子の泣き声にもすぐには反応できなかった。
「っ…朱里っ…」
傍らで、掛布を頭まですっぽり被って眠っている朱里に声をかけてその身体を揺さぶる。
すぅすぅと可愛らしい寝息を立てて穏やかに眠っている朱里を起こすのは忍びなかったが、背に腹はかえられない。
「朱里っ…」
「んっ…のぶながさま…」
ぼんやりとした目で寝惚けたように視線を彷徨わせる朱里は、状況が飲み込めていない様子で吉法師の泣き声にも気付いていないらしく、せっかく開いた目蓋もすぐに落ちかけてしまう。
(っ…ここで眠られては困るっ…)
「朱里っ…吉法師が…泣いておる。すまんが起きてくれ」
「えっ…あっ…吉法師?あっ…」
母親の本能だろうか、吉法師の名を聞いた途端に、ハッと目を見開いた朱里はノロノロと身体を起こし始める。
ところが、起き上がった拍子に、被っていた掛布がハラリと落ちて……
「……………」
(こやつ、何故、裸なのだ…)
起き上がった朱里は、一糸纏わぬ美しい裸体を惜しげもなく曝け出した、乱れた姿で……
「きゃぁっ…やだっ…」
(っ…忘れてた…昨日あのまま眠っちゃったんだ…恥ずかしい)
信長の視線が気になりながらも、寝台の下に無造作に脱ぎ捨てられたままになっていた襦袢を手探りで拾い上げる。
何か言いたげな信長の視線をさり気なくかわしながら、襦袢を適当に羽織って急いで前を合わせると、小さな寝台の上で泣き続ける吉法師を慌てて抱き上げた。
「よしよし吉法師、目が覚めちゃったのね。お腹、空いてるのかなぁ…さぁ、お乳飲もうね…ツッ…」
吉法師に乳を含ませるため、信長に背を向けて胸を露わにした朱里は自身の胸元を見て息を飲む。
(やっ…こんなに……)
鎖骨に、乳房に、胸の谷間に、と余す所なく咲き誇る紅い華。
昨夜の熱を再び呼び起こすような、信長の独占欲を露わにする沢山の紅い証に、かぁっと身体の熱が上がる。
(あぁ…私、信長様に久しぶりに愛されて…はぁ…なんて幸せな夜だったのかしら…)
昨夜は濃密に抱かれて意識を飛ばしてしまい、そのまま朝まで眠ってしまったらしい。
身体中に残る信長の愛の証と、今なお残る情事の余韻の気怠さが心地良くて、思わずうっとりとしてしまう。