第92章 帯解き
「まぁまぁ!なんと可愛らしいこと!よう似合っておる」
「義母上様っ…」
帯解き当日の朝、結華の支度を整えていると、義母上様が様子を見にきて下さった。
「顔つきまで急に大人びたようじゃ。子の成長は早いのぅ」
義母上様は、結華の頭を優しく撫でながら穏やかに微笑んでおられ、晴れ着に身を包んだ結華もまた嬉しそうにはにかんでいる。
晴れ着の胸元には、深紅の牡丹の花飾りが付けられており、結華はそれが気になって仕方がないらしく、姿見の鏡の前に行ってチラチラと見ながら、しきりにそれに触れていた。
(ふふ…結華ったら、新九郎くんからの贈り物が余程嬉しかったのね。可愛いなぁ…)
「姫様、そろそろお時間です。皆様、城門前にてお待ちでございますよ」
部屋の入り口まで来た千代に呼びかけられる。
微笑ましい娘の様子にほっこりしつつ、義母上様と談笑している内に、出かける時刻になってしまったようだ。
「では、参りましょう」
天満宮での祈祷には、武将達も参列してくれることになっていた。
赤子の時から、結華の成長を一緒に見守ってきてくれた武将達とともに、誰一人欠けることなくこの日を迎えられたことに感慨深いものを感じる。
信長様の妻として、子供達の母として、まだまだこの先も色んなことがあるだろう。楽しいことばかりではなく、時には辛いことだってあるかもしれない。
それでも…こうして大切な人たちが隣にいてくれる。
それだけで、何があろうと、これからだって何度でも頑張れる…そんな気がしていた。