第92章 帯解き
(結華の初恋…淡い片恋だと思ってたけど、こんな素敵な贈り物をお祝いにってわざわざ贈ってくれるなんて、新九郎くんの方も結華のこと、満更でもないのかな……だとしたら私は嬉しいけど)
幼い子供達の他愛ないやり取りに一喜一憂するなんて…と思いつつも、子供達にはやっぱり本当に好きな人と結ばれて欲しいと思うのだ。
私が信長様と出逢って恋をして結ばれたように………
信長様は、子を政略の道具にはなさらないだろう。
数多の公家衆、大名達から縁組の話が上がっているが、利を優先して結華を嫁がせるようなことはなさらないはずだ。
それは単に結華が可愛いからというだけではない。信長様はご自身の大望の為に他人に犠牲を強いるような方ではない。
(政略ではなく、互いに心から想い合って一緒になること…乱世ではなかなか難しいけど、それはとっても幸せなことだから…子供達がそういう選択が自由にできる世になって欲しい)
戦のない世
生まれや身分に関係なく
誰もが己の心のままに自由に生き方を選べる世
信長様が目指される世の在り方は、これからを生きていく子らの為のものでもある。
(子供達には、自由に、思うまま成長していって欲しい。この子達が大人になる頃には、戦や一揆の心配をしなくてもいい世の中に……信長様はきっと成し遂げられるだろう)
「ふぇ…ふぅ…うぇーん……」
「あぁー!吉法師が起きたぁ!」
元気な泣き声を上げる吉法師と、その顔を優しく覗き込む結華。
赤子の急な泣き声にも動じることなく、ゆったりと脇息に凭れながら二人を見守る信長様。
吉法師の布団の傍ににじり寄りながらも、オロオロと落ち着かない様子の秀吉さん。
皆の柔らかな視線に囲まれて、力強く精一杯に己の存在を主張する吉法師。
昼下がりの穏やかな時間
大切な人達に囲まれて穏やかに過ぎていくこの時が、何にも代え難い幸せな時間に思える。
「よしよし、吉法師、いい子だねぇ」
顔をくしゃりと歪ませて泣く吉法師を抱き上げて、その柔らかな肌の感触と甘い香りを堪能しながら、幸せな時間に浸っていった。