第17章 戦場
鉄砲と大筒の一斉射撃は、大地を震わすほどの轟音を響かせて、城を破壊し、敵方の戦意を喪失させた。
敵将は降伏し、城を明け渡す旨の申し出があった…まあ、城はほぼ壊滅状態ではあったが。
義昭は鉄砲の轟音に恐れをなし城から出てきたところで、信長の大音声での恫喝を聞いて戦意を失い、何処かへ逃走していった。
「信長様の戦場での大音声は、相変わらず迫力あるな」
「あれで敵方は完全に総崩れでしたね…あの人、昔から変わらないな」
政宗と家康が兵をまとめて指示をしながら、本陣に集まってくる。
「光秀、城の受け取りと後始末を任せる。
家康、政宗、負傷者の収容と引き上げの準備をしろ。
……安土に戻るぞ」
「はっ!」
「御館様、安土に勝利を知らせる伝令を送ります。
……文を書かれますか?」
「ん、ああ。秀吉が心配しておるか…俺が奴に直々に書いてやるか」
「くくっ、秀吉よりも文を書かねばならぬ者がおられるのでは?」
意味深な顔をして口の端を緩める光秀の言葉に、この世で最も愛しい者の顔が浮かぶ。
(朱里…俺のこの手はまた多くの血で汚れたが、それでもこの手で貴様に触れたいと思う。貴様の温もりを欲しいと願うことは、許されることだろうか…)
返り血に汚れた甲冑の下に忍ばせた匂い袋から、伽羅の香りが香る。
今はまだ遠く離れていて触れられぬ朱里をこの身に感じたくて、その香りを深く深く吸い込んだ。