第91章 家族
「信長様っ…」
「っ…朱里……?」
込み上げる愛おしさに突き動かされ、信長様を抱き締める。
気がつけば、その頭を胸に掻き抱いて、子にするように優しく髪を撫でていた。
信長様は過去を悔いてはおられない。
辛く理不尽な過去を受け止め、大切な者達がいつまでも笑っていられる未来を願われているのだ。
「共に暮らさずとも互いの想いは通じる……それが、家族というものなのだろうな」
ポツリと呟くように溢れた言葉が心を震わせる。
「信長様…私、貴方の家族になれて幸せです」
精一杯の想いを伝えたくて、抱き締める腕に力を込める。
「朱里…俺もだ。貴様は俺に家族を与えてくれた。幼き頃、望んでも望んでも手に入らなかったぬくもりを、貴様は俺に与えてくれたのだ」
互いに視線を交わし合い、どちらからともなく唇を重ねる。
「ん…ふっ…あっ…」
唇を撫でるように優しく何度も重ねられる口付けは、この上なく甘く離れがたいものだった。
「んっ…はぁ…信長さま…」
「っ…くっ…朱里っ…」
愛おしさを伝えたくて、口付けの合間に互いの名を何度も呼び合う。
夜空には煌々と輝く月が浮かんでいて、秋の澄んだ空気を肌身に感じる。
冷んやりとした秋風が吹き抜けて髪をあおるのを、信長様が優しげな手つきで押さえてくれて…そのまま頭をぐっと引き寄せられた。
「んんっ…はぁ…」
緩く開いた唇の端から差し込まれた熱い舌が、口内をトロリと甘く蕩けさせる。
久しぶりの信長様との触れ合いに、秘めていた身体の奥の熱が、かぁっと煽られる。
子を産んでしばらくは夜伽はできない。
信長様もそれはご存知だから、戯れに触れるようなことはなさらなかった。
それでも今宵は、互いに自然と手を伸ばしていた。
ただ、ぬくもりを感じたくて…触れたくて堪らなかったから…
口付けしかできないもどかしさに身を焦がしながらも、その夜、私は、頭の芯まで蕩けさせるような濃厚な口付けに溺れていったのだった。