第91章 家族
腕の中に閉じ込めた朱里の柔らかな身体からは、甘い乳の香りがする。
黒髪を掻き上げ、真っ白い首筋に鼻先を埋めて深く息を吸い、甘い香りを堪能する。
「やっ…信長さま…恥ずかしいから…」
「恥ずかしがらずともよい。甘い…良い香りだ」
恥じらう朱里を抱き上げて寝台の上へ寝かせると、その隣へぴったりと寄り添うように身を横たえる。
「疲れてはおらぬか?昼も夜も、あまり休んでおらんだろう?」
髪をゆったりと梳きながら耳元で優しく囁く。
「んっ…大丈夫ですよ。義母上様も何かと気遣って下さいますし、皆が助けてくれるので…」
「そうか…だが、貴様は放っておくと無理ばかりするからな」
「信長様……」
髪を撫でる優しい手つきに、うっとりと目を閉じる。
そうすると、次第に眠気が襲ってきて……自覚していなくても、やはり身体は疲れているのかもしれなかった。
触れ合う信長の高めの体温が心地良くて、段々と目蓋が重くなってくる。
「……眠いか?」
「んっ…平気…です」
信長様と二人きりの貴重な時間、眠ってしまうのが惜しかった。
子を産んでしばらくは身体の交わりは禁じられているけれど、一日の終わりにこうして身体を寄せ合って他愛ない話をするだけでも幸せだったのだ。
信長は吉法師のその日の様子など、些細な話も面倒がらずに聞いてくれる。
日々忙しい信長と、夜眠る前の少しの間でも一緒の時間を共有して吉法師や結華の話ができることが嬉しかった。
「まだ…眠りたくないの。貴方ともっと一緒にいたい…」
逞しい胸元に頬を擦り寄せて、心の臓の脈打つ力強い音を聞く。
「っ…愛らしいことを言う。俺とて貴様ともっと触れ合って色々な話をしていたいところだが……無理せず、今宵はもう休め。
今休んでおかねば、またすぐ吉法師に起こされるぞ?」
「ふふ…そうでした」
信長様は、悪戯っぽく笑いながら私をぎゅっと抱き締めてくれる。
愛しい人の腕の中にいるというだけで安心感に包まれて、そっと目を閉じた私は、すぐに深い眠りに落ちていったのだった。