第91章 家族
「朱里、戻ったぞ」
沐浴を済ませた吉法師を腕に抱き、天主へ戻った信長はそのまま寝所へと向かう。
「ありがとうございます、信長様。吉法師、気持ち良かったねぇ」
さっぱりした様子の吉法師の顔を覗き込みながら、信長の腕から慎重に受け取って小さな寝台の上に寝かせる。
四方に柵の付いた小さな寝台は赤子用のもので、信長が吉法師の為にわざわざ異国より買い入れたものだった。
御七夜を過ぎて、体調的にも少し落ち着いた頃から、私と吉法師は天主の寝所で信長様と一緒に眠るようになっていた。
赤子の沐浴後の世話をする朱里を、信長は寝台に腰掛けて見るともなしに見ている。
風呂に入れ、清潔な衣類に着替えさせ、乳を与えて、寝かし付ける。夜中に起きれば、汚れたむつきを替え、また乳をやり、寝かし付ける……赤子の世話は延々その繰り返しだ。
手足をバタバタと動かし、泣くことでしか己の意思を表現できぬ産まれたばかりの小さな存在は、周りの者が手を掛けてやらねば生きていけぬ。
二人目ということもあり、朱里は手際良く世話をしているようだったが、それでも赤子の機嫌に振り回されて、一日中休む間もなく動いている。
「……眠ったか?」
乳を飲ませた後、トントンと優しく背を撫でてやっている内に眠ってしまった吉法師を布団の上に寝かせていると、信長様が後ろから覗き込みながら小さな声で囁く。
「ふふ…お腹がいっぱいになったんでしょうか…すぐ寝てしまいました」
「貴様の乳の出が良いのであろう。よく飲んで…少し大きくなったか?」
「ええっ?やっ、そんな…」
朱里は恥ずかしそうに頬を朱に染めて、両手で夜着の上からでも分かるぐらいに豊かな胸を隠すようにする。
「っ…貴様、何を勘違いしておる?くくっ…俺は、吉法師が少し大きくなったか、と問うたのだぞ?」
「やっ…嘘っ…もぅ、紛らわしい言い方ばっかりなさるんだからっ!」
「くくっ…貴様の胸が大きくなったかどうかは聞かずとも見れば分かるわ。何度も見ておるからな」
ニヤリと意地悪く口角を上げて笑う信長を見て、朱里は勘違いをした自分が益々恥ずかしくなってしまう。
「意地悪ばっかり仰って…もぅ、知らないっ!」
拗ねたようにプイッとそっぽを向いてしまった朱里の身体を、信長は少し強引に引き寄せる。
「あっ…んっ……」