第91章 家族
「朱里は、身体は大丈夫か?しっかり休めてるのか?」
心配性の秀吉さんは、顔を合わせるたびに私の身体を気遣ってくれる。
「大丈夫だよ。吉法師のお世話は信長様も手伝って下さるし、昼間は義母上様も様子を見に来て下さるから私、すごく助かってるの。結華もいい子でお手伝いしてくれるしね」
結華を産んだ時は、初めての子育てで戸惑うことも多く、周りを見る余裕もなかった。
何でも一人で頑張ろうとして無理をしてしまい、心配した信長様と言い合いになることもあった。
けれど此度は気持ちに余裕があるからか、周りの声に耳を傾け、素直に助けを求められるようになっていたのだ。
「そうか…でも、あんまり無理はするなよ。朱里は色々と頑張り過ぎなんだから、もう少し肩の力を抜いて、気楽に構えてていいんだからな。俺にも遠慮なく甘えてくれよ」
「ありがとう、秀吉さん」
吉法師は皆が待ち望んでいた信長様のお世継ぎ、立派に育てていかなくてはと、どうしても気負ってしまう私の気持ちを、秀吉さんは全てお見通しみたいだ。
秀吉さんには、これまでも本当に助けられてきた。
「秀吉さん、私、今すごく幸せなの。結華と吉法師、信長様の御子を二人も授かれて…こんなに満ち足りた日が来るなんて思いも寄らなかった。あの日、小田原で信長様に出逢わなければ、こんな幸せな日々は過ごせなかった。皆とも出会えなかった。
そう思うと、今この時、一日一日がすごく貴重なものに思えるの」
「朱里…」
「本当に…信長様のこと、こんなに好きになるなんて思わなかった……」
募る想いが胸をきゅうっと甘く疼かせて、思わず、ほぅ…と溜め息を吐いた、その時………
「俺のおらぬところで、そのような蕩けた顔をして愛らしい言葉を秀吉に聞かせるとは…全くもって許し難いな」
「信長様っ…」「父上っ!」
「お、御館様っ…」
襖を開け放ち、颯爽と室内へ入ってきた信長は、その鋭い眼光で秀吉をギロリと睨む。
信長の放つ圧倒的な威圧感に、秀吉は慌てて平伏する。
「あ、あのぅ…ご政務の方は…」
「終わった」
またもや休憩と称して執務室を抜け出して来られたのかと、恐る恐る尋ねる秀吉に、信長はピシャリと言い放つ。