第91章 家族
「朱里、俺だ、入るぞ〜」
乳を飲みながら眠ってしまった吉法師を、起こさないように布団の上にそおっと寝かせていると、秀吉さんのよく通る大きな声が聞こえてくる。
振り向くと、部屋の入り口に秀吉さんが沢山の荷物を抱えた格好で立っていた。
「しいーっ!秀吉さんっ…静かに…」
「うおおっ…すまんっ!吉法師様はお休みか?」
「うん、今さっき寝ついたとこだから…」
眠る吉法師の様子を窺い、掛布をかけてやっていると、秀吉さんは荷物を抱えたまま足音を立てないように、抜き足差し足で入ってくる。
「おおっ…お健やかな顔でお休みだな。何より何より」
「うん、この子は寝付きがいいみたいで私も助かってるよ。秀吉さんはどうしたの?お仕事は?…っていうか、その荷物は何?」.
「これか?これは、各地の大名達から届いた祝いの品だ。なんといっても織田家の御嫡男の御誕生だからな、毎日続々と届いてるぞ。これはほんの一部、吉法師様がお喜びになりそうなものを持ってきた」
見れば、羽子板やコマ、絵巻物、果ては立派な木馬など子供の遊び道具ばかりだ。
だが、子供の遊び道具とはいえ、どれも見事な装飾がなされた逸品のようで、使うのに気後れしてしまいそうなものばかりだった。
「ありがとう、秀吉さん。吉法師が使えるようになるのはまだまだ先だけど、すごく嬉しい」
「今日は朝から三成と祝いの品の目録を作ってるんだ。無事に出産を終えたお前へ贈られた品も沢山あったぞ。
朱里、本当によく頑張ったな。御館様のお世継ぎを産んでくれたこと、心から感謝してる。ありがとうな」
「秀吉さんっ……」
深々と頭を下げられて慌ててしまう。
秀吉さんが誰よりも信長様を慕っていて、お世継ぎを待ち望んでくれていたのも知っている。
なかなか二人目を身籠れなくて落ち込む私を、秀吉さんは励まし続けてくれた。
秀吉さんのさりげない気遣いに、私は何度も助けられてきた。
すやすやと眠る吉法師の穏やかな顔を見る。
吉法師の隣には、産まれたばかりの弟を優しく見守る結華の姿があった。
信長様や秀吉さん、武将達、皆が支えてくれたから…私はこの子達の母になることができたのだ。