第90章 月に揺らぐ
(んっ……柔らかいな…それに温かくて…心地よい)
身体に触れる柔らかな感触が心地よくて、寝惚けた頭のままで、ぎゅううっと腕に力を入れて抱き締める。
「っ…んんっ…」
(っ…朱里っ…?)
腕の中で身動ぐ温かな存在の、少し苦しそうな掠れた声にハッとして、腕の力を緩めた。
寝言だろうか……朱里の目蓋はいまだ閉じられたままで、すぐに起きる気配は感じられない。
室内はまだ薄暗く、夜明け前のようだ。
一組の布団の上で身体を丸めるようにして横になっていた俺と朱里は、ぴったりと隙間なく互いの身体を寄せ合っていた。
まだ頭がぼんやりしているようで、些か調子が狂うが、薄闇の中で徐々に目も慣れてきたようだ。
背中から抱き締めたままの朱里の身体は温かく、触れているだけで己の身も心も穏やかな心地になっていく。
目の前の艶やかな黒髪に、そっと唇を寄せる。
朱里の頭のてっぺんから髪の先まで、ゆっくりと唇を滑らせる。
胸の奥から湧き上がる愛おしさに感情を突き動かされて、何度も何度も髪に口付けを施す。
(愛してる。何度口付けても足りない。身体中口付けても、きっともっと欲しくなるっ…)
背中から前に回していた手で、衝動のままに朱里の身体を撫でる。
夜着の上から胸の膨らみに触れた瞬間、腰の辺りがズクッと疼いた。
(っ…くっ…しまったっ…勃って…)
それは……朝勃ちという男の生理現象なのか、日頃抑えている欲求のせいなのか……信長の意思に反して、ググッと力強く鎌首を擡げ始めていた。
この体勢のままではいかんと、密着していた朱里の身体を離し、狭い布団の上で僅かに距離を取った。
「はぁぁ……」
朱里を起こしてしまわぬよう、小さく溜め息を吐く。
自覚はないが昨夜は飲み過ぎたのだろうか、酒が残っているせいか、何となく身体が重かった。
だが、重だるい身体にも関わらず、ソコは元気そのもののようで…グイグイとその存在を主張してきている。
我ながら、最近の自分は自制心が脆くなっていると言わざるを得ない。
長らく我慢が続いているとはいえ、朱里のことを想うだけで欲が昂り身体が熱くなる。
少しでも触れてしまえば歯止めが利かないと分かっていながら、昨夜のように衝動のままに口付けたりしてしまうのだ。
朱里のことになると、心も身体も途端に冷静さを欠く今の自分が、全くもって悩ましい。