第90章 月に揺らぐ
私の膝に躊躇いがちに頭を乗せて横になった信長様は、目を閉じてふぅっと吐息を吐く。
「信長様が酔われるなんて珍しいですね……だいぶ飲まれたのですか?」
心なしか身体が熱いような気がして、額にそっと手を当ててみる。
火照ったような熱は、酒が回っているせいだろうか…
「ん…貴様の手は冷たくて心地良いな。さほど飲んだつもりはないが、今宵は早く酔いが回ったようだ。貴様がおらぬと、いつもの酒も美味くはなかったのだがな……」
「信長様……」
下から伸ばされた手が、額に乗せていた私の手に触れる。
指先まで熱くなった手に触れられて、ビクリと身体の奥が震えた。
「……朱里」
「あっ…っんん……やっ…」
捕らえられた手は、そのまま信長様の口元へと運ばれて……ちゅっと音を立てて口付けられた。
爪先に啄むような口付けを何度も落とし、唇で優しく喰むようにされてから、熱くなった舌で指の間をチロチロと舐められる。
「やっ…んっ…はっ…」
(信長様の唇、すごく熱いっ…舌も…熱くて…触れられたところが溶けてしまいそう…)
唇が触れたところが、熱を持ったようにジンジンと疼いてしまう。
「んっ…やっ…離して、信長様っ…」
「本当に離して欲しいのか?嫌なら力ずくで振り解けばよい。ふっ…貴様の顔はそうは言っておらんようだがな…その顔は男を誘う蕩けた顔だ」
「っ…ひどいこと仰ってっ…信長様のせいですよ…」
「俺を惑わす貴様が悪い。本当に…貴様のやる事なす事、全てが俺を狂わせるっ…朱里っ…」
「あっ…んんっ…はぁ…」
絡められていた手をいきなりグイッと引かれて、もう我慢できないというかのように性急に後頭部を引き寄せられ……唇を深く深く重ねられた。
ーちゅっ ちゅううぅ… くちゅっ ちゅぷっ
強引に割られた唇に、尖らせた舌先を捩じ込まれて、口内を嬲られる。
熱い吐息を注ぎ込まれて、一段と濃く香る酒の匂いに酔ってしまいそうになる。
(んっ…やっ……)
「やっ…信長さま…お酒…やだ…」
酒の匂いに、自然と身体が拒否反応を起こす。
信長様からの深い口付けは久しぶりで、求められることはこの上なく嬉しかった。
けれど、頭を引き寄せられて前屈みになったせいでお腹が圧迫されて苦しく、お酒の匂いも気になってしまい…気が付けば、信長様の腕を押し戻そうと、もがいてしまっていた。