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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第89章 重陽の節句


「千鶴、俺がお前に贈りたいんだ。自分が選んだ簪を好いた女に身に着けてもらいたい…って単なる男の我が儘だけどな。
俺がお前をとことん甘やかしたいだけだ。
嫌じゃなかったら、受け取ってくれ」

「秀吉様……」

「っ…簪はこのまま挿しておいたらいい。おい、店主。か、勘定を…」

千鶴の目が潤みそうになるのを見て動揺した秀吉は、慌てて店主に勘定を促した。

本当は人目など気にせず、この場ですぐに千鶴を抱き締めたかった。
潤んだ瞳に口付けて、耳元で愛を囁いて、その可愛い唇を深く奪って………

(あー、クソッ…妄想が止まんねぇ…)

ザワザワと忙しなく騒ぐ鼓動と、勝手に熱くなる身体を持て余しつつ、秀吉は千鶴に気付かれぬよう平静を装うのに必死だった。



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城へ戻り、千鶴を部屋まで送り届けた秀吉は、その足で天主の信長のもとへと向かう。


「御館様、只今戻りました。お求めの菓子は、こちらでございます。どうぞお納め下さいませ」

文机の前で書簡に目を通していた信長に、恭しく菓子の包みを差し出す。

信長はそれをチラリと横目で見てから、目の前に平伏する秀吉の様子をしげしげと見るのだった。

「………随分と早かったな」

「は?えっ…いえ、そうですか?」

「秀吉、貴様、よもやこの菓子だけ買って帰ってきたわけではあるまいな?」

「ええっ!?いやいや、これ以上の甘味はいけませんぞ、御館様。この菓子だって、朱里がどうしても食べたがっているというから買ってきたんですからっ…」

「たわけっ、そういう意味ではないわ。……千鶴と一緒に行ったのだろう?よもや貴様が、恋仲の女と共にありながら、用事だけ済ませて帰ってくるような腑抜けだったとはな」

敬愛する主君に心底呆れたというような顔で深く溜め息を吐かれ、秀吉は大いに慌てる。

「な、何を仰るんですか、御館様っ!俺は御命令をきちんと完遂したまでで……いや、まぁ、そのぅ…少し、二人で市を散策したりは致しましたが……」

「……それだけか?」

「へ?それだけって……茶屋で甘味も頂きました…けど?」

「それから?」

「それから?いや、それだけ…です」


「はあぁ…政務の段取りは人一倍早いくせに、存外、女の扱いは奥手ということか……人たらしが聞いて呆れる」

「は?今なんと?」


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