第89章 重陽の節句
「やっ…信長さまっ、何を…」
「貴様があまりにも愛らしいのが悪い。そんなに恥じらって…俺を煽っているのか?」
「ち、違いますっ…」
「ふっ…まぁ、よい。次は貴様の番だ。俺が拭いてやる」
言うが早いか、信長様の手はもう私の着物の袷にかけられていた。
ぐいっと左右に押し開かれて、肩から鎖骨にかけてが露わになる。
「や、待って…私は後で自分でしますから…あっ…やっ…」
「遠慮はいらん。毎年、お互いにしていることだろう?」
「そう、ですけど…」
そう、例年は天主の寝所で互いに身体を拭い合って……そのまま、なし崩し的に朝から抱かれるという流れになってしまっていたのだけれど……
(今年はそういうわけにもいかない。結華が待っているし。何より…信長様に懐妊中のこの身体を見られるのが恥ずかしい)
臨月近くなって、お腹が随分と大きくなっている。
懐妊前と比べて体型も変わってしまっている気がする。
信長様とは長らく交わりがなかったせいで、久しぶりに肌を見られるというのが、何だかとても恥ずかしかったのだ。
「ほら、後ろを向け。そんなに恥ずかしいのか?ならば、背中だけ俺が拭いてやる」
肩からするりと着物を落とされ、慌てて胸元を隠す私を、信長様は納得いかない様子で不満そうに見ながらも、それ以上は無理強いせずに背中だけ拭いてくれた。
拭きながら、信長様の指先が背中に触れるたびに、ゾクリと身体の奥が痺れるようになり、しっとりと濡れた真綿がゆるゆると肌を滑る感触は心地良くて、蕩けてしまいそうだった。
「ありがとうございます、信長様」
前を自分で拭いてから着物を整えて、信長様と向かい合う。
「っ……」
「………どうかしました?」
「くっ…貴様っ、そんな…致した後のような蕩けた顔をしおって…俺の我慢を何だと思っているのだ?」
「嘘っ…そんな顔してません!」
(確かに、信長様に背中を拭いてもらって、すごく気持ち良かったけど…そんなやらしい顔してないもん)
じっと見つめてくる信長様の視線に耐え切れず、私は話題を変えることにする。
「あの、信長様…私、お願いがあるのですけど……」