第16章 出陣
戦の支度は粛々と進められ、いよいよ出陣の日を明日に控えたその日、私は自室で縫い物をしていた。
「っ、よし、出来た!」
縫い終わりの糸を切ったその時、襖の前で愛しい人の声がかかる。
「…朱里、俺だ。入るぞ」
「は、はい、どうぞ」
私は出来上がったものを慌てて懐にしまい、襖の向こうへ返事をする。
「…針仕事か?珍しいな、貴様がそのようなこと」
「結構得意なんですよ!…それより、信長様こそ珍しいですね。
いつもは私を天主にお呼びになるのに、今日は来てくださるなんて…
この時間は軍議ではなかったのですか?」
裁縫道具を片付けながら、信長様に茵をすすめる。
「軍議は終わった。これより明朝の出陣まで、家臣たちには暇を与えた……
よって、俺も時間ができた。
俺の時間を貴様にやる。」
「っ、はいっ。ありがとうございます!」
出陣前の軍議やら準備やらで、ここのところ信長様は忙しく、朝は私が起きる前に起き出し、夜も明け方近くに天主に戻って来る生活だった。
出陣の日が迫る中で、信長様とすれ違う生活にますます不安が募っていたのだった。
(このところゆっくりお話も出来てなかったな。
わざわざ私のために時間をくださるなんて…嬉しい)