第88章 裏切り〜甘い香りに惑わされて
産み月が近いこともあって、最近は身体の交わりはおろか、口付けすらも軽く触れる程度しかしていなかった。
それでも、毎日お傍にいられて私は幸せだったし、お腹の子を無事に産む為ならば、触れ合えない寂しさも我慢できた。
むしろ最近は、お腹の子のことが心配で、正直なところ身体の快楽を求める気分にはなれなかった。
(でも…信長様は…男の方は違うのかも…私の身体を気遣って我慢なさってるだけで、本当は…したいのかも)
何度か、私から手や口での愛撫をしようとしたこともあったのだけれど、信長様にはやんわりと断られていた。
(身重の身体で無理はしなくていい、自分は平気だから…って仰っていたけど……平気じゃなかったのかも)
一人でなさっている時の信長様の息遣いはひどく官能的で、聞いているだけで欲を煽られた。
声を抑えておられたのか、時折苦しげに息を吐かれるのが色っぽくて堪らなかった。
けれど……艶めかしい信長様にドキドキした反面、やはり色々と我慢させてしまっていたのかと不安にもなる。
結華を身籠った時は産み月まで体調も良かったから、ギリギリまで触れ合えていたけれど、此度の懐妊ではそういうわけにもいかなかった。
(私、お腹の子のことばかり考えて、信長様のお気持ちを少しも考えてなかったのかもしれない…妻なのにっ…)
「信長様……」
モヤモヤとする気持ちのまま横になって信長様が戻られるのを待っていたが、信長様はその夜、なかなか戻られなかった。