第88章 裏切り〜甘い香りに惑わされて
産み月までふた月余りとなり、身体の交わりは久しく途絶えている。
子が流れかけたこともあって、交わりはおろか軽い触れ合いでさえも慎重にならざるを得ず、ここ最近は口付けすら深くはできないでいた。
子が無事に産まれるまでは仕方のないことと頭では理解していても、正直、男としては辛いものもあり…信長にとっては毎日が我慢の日々なのである。
交われずとも同じ褥で休みたいと思い、毎夜、朱里を天主へ連れて戻っているが、同じ褥ですぐ傍に愛しい女がいるのに何も出来ないというのは、精神的にも肉体的にも予想外にきつかった。
ただ、男の見栄もあり、朱里には堪え性のない男と思われたくなくて虚勢を張って余裕ある態度を見せてはいたが、内心は余裕などこれっぽっちもなくて、今も、はだけた足元を見ただけでどうしようもなく欲情してしまっていた。
胡座を掻いた足の中心が、ずくずくっと疼いて堪らない。
(くっ…女を知ったばかりの若人でもあるまいに…これほど抑えが効かんとはな)
ふぅっと深い溜め息を吐いて気持ちを落ち着かせようとするが、身体の昂りは収まりそうもなかった。
夜着の上からでも分かるほどに存在を主張し、痛いぐらいに張り詰めている。
(っ…これはっ…一度出さねば収まりそうもない、か……)
一度昂ってしまったモノは容易に収まりそうもない。
既に先走りの露も漏れ始めているようだ。下帯がじんわりと濡れ、肌に貼りつく何とも言えない感触に、ぶるりと背が震える。
こんもりと膨らんだ夜着の上にそっと手を伸ばし、そのカタチに沿うように握り込めば、ゾクゾクするほどの快感が全身を走り抜ける。
「っ…うっ……」
抑えきれない快感が、小さな喘ぎとなって口の端から零れ落ちる。
己の手の感触だけで情けなくも声を漏らすほどに、ひどく溜まっているらしい。
『ん……信長さまぁ…』
その時、眠っているとばかり思っていた朱里が、軽く身動ぎしながら俺の名を呼んだ。
(っ…起きたか……?)
反射的に口元を押さえ、慌てて朱里の顔を覗き込むと、目蓋は固く閉じられたままだった。
(何だ、寝言か……紛らわしいな)
夢でも見ているのだろうか、頬を緩め、口元をむにゃむにゃと動かしているのが見え、それが堪らなく可愛らしい。
今すぐにでも、その愛らしい唇を奪ってやりたくなる。
(全く…人の気も知らないで…)