第87章 向日葵の恋
(もぅ、面倒なのはどっちなのよ…さり気なく、なんて難しいこと言われたって…)
「た、例えば、身近な人で、気になってる殿方とかは?ほら、城の武将達は皆、男前だし優しいし……秀吉さん、とか?」
「ひ、秀吉様ですか!?」
(あぁ…全然さり気なくなかった…うっ、ごめんなさい、信長様)
心の中で信長様に謝りつつ、千鶴の様子を見れば、先程よりも数倍顔を真っ赤に染めて、動揺を隠し切れない様子だ。
これは…本当に信長様の見立てが当たっていたのだろうか。
「あの、秀吉様は本当にお優しくて、いつも姫様のことを気にかけて下さいますし、頼もしい御方で………私にとっては雲の上の御方です」
(ん?)
千鶴の表情が、途端に暗いものになる。
「ねぇ、もしかして、千鶴は秀吉さんのこと……」
「い、いいえっ!秀吉様は、私などの手が届くような御方ではございませんからっ…御館様の一番の御家臣で、城持ちでもいらっしゃる…私などが軽々しく好きになってはいけない方です」
言いかけた私の言葉を遮るように、千鶴は首を強く横に振って否定の言葉を口にする。
「秀吉さんはそんなこと気にする人じゃないよ、千鶴。身分とか立場とか、そういうものは気にしなくていいの。信長様も秀吉さんもそんなもので人を判断する人じゃないでしょう?」
「それは……。それでも、秀吉様は魅力的な方ですから…周りの者を明るく照らす太陽のようなあの方は、私には眩し過ぎます」
「千鶴……」
沈んだ顔で俯いてしまった千鶴に、私は何と声をかけてよいのか分からなかった。
もどかしいぐらいに切ない恋心。
千鶴がいつの間にか、こんなにも秀吉さんに想いを寄せていたなんて思いもしなかった。
秀吉さんはどうなのだろう。
同じように千鶴を想ってくれているだろうか。
二人とも大切な人だから…互いに傷付いて欲しくない、幸せになって欲しい…心からそう願わずにはいられなかった。