第85章 黒い影
「っ…あっ…んっ…やっ、やめ…て…」
ーちゅっ ちゅうぅ…ちゅぷっ…
天主の寝台の上で、逞しい腕に背中から抱き締められた私は、首筋に押しつけられる熱い唇から逃れようと、身を捩る。
与えられる快感から逃れようと、敷布を擦ってモゾモゾと動いていた私の足に、信長様の逞しく鍛えられた筋肉質な足が絡みつく。
足同士、素肌が触れ合う感触は心地好い……けれど、そうしていると、それ以上はしてはいけないと分かっているのに、もっと気持ち好くなりたいと身体が疼きだしてしまうのだ。
「やっ…ダメっ…もぅ離してぇ…」
「っ…朱里っ…」
思わず拒絶の言葉を溢した口を、強引に塞ぐように激しく唇が重ねられる。
「んんっ…!あっ、ふっ…あぁ…」
明日、信長様は備後国へ出陣される。
光秀さんの計略が功を奏し、此度の出陣は、朝廷から『将軍 足利義昭を討て』との勅命を賜った、義の戦となった。
此度の戦には、秀吉さん、政宗、家康の三人が出陣し、三成くんが城守を務める。
投獄されたままの光秀さんは、何も話さず、今も薄暗い牢の中でじっと時を過ごしているそうだ。
秀吉さんが出陣の報告をするために、昨日牢を訪れた時にも、まるで秀吉さんが来るのが分かっていたかのように『そうか』と言っただけだったという。
(全て光秀さんの計略どおり…なんだろうな。牢の中にあっても、思うとおりに物事を動かして…さすがは光秀さんだな)
牢の中で見た光秀さんの鋭い眼差しを思い浮かべていると、チクッと首筋に淡い痛みが走る。
「んっ!やっ…痛っ…」
「考えごとなどする貴様が悪い」
くくっ…と意地悪く笑いながら後ろから首筋に淡く歯を立て、尖らせた舌先でツーっと舐め上げられる。
背を駆け上がる快感に、ゾクリと肌が震えた。
「あっ…んっ…も、やっ…」
「つれないな。明日からしばらく触れられんのだ…今宵は少しばかり貴様を堪能させよ」
首筋に顔を埋めたまま、大きな手が身体の線をなぞるように上から下へと撫でていく。
「っ…だめっ…んっ、それ以上したらっ…はぁ…もっと、欲しくなっちゃうからぁ…」
「っ……貴様っ…」
お腹の子のため、これ以上の深い触れ合いはできない。
でも、こうして信長様に触れられていると、もっと、もっと、と淫らに欲してしまうのだ。