第85章 黒い影
「ええっ、光秀さんが、投獄された……?」
「はい。今日の夕刻に」
沈痛な面持ちで目を伏せる三成くんを、私は信じられない気持ちで見つめていた。
信長様が兵の視察に向かわれる途上で刺客の襲撃に遭ったという知らせは、早馬で城内にも届き、城内は一気に慌ただしくなった。
幸い信長様にお怪我はなかったものの、秀吉さんが刀傷を負ったと聞いて私は気が気ではなかった。
すぐにでも二人に会いに行きたかったが、城内の異様に殺気立った雰囲気に気圧されてしまい、不安な気持ちのまま、自室で信長様からの報せを待っていたのだった。
信長様と秀吉さんは事後処理に忙しく、秀吉さんに命じられた三成くんが私に事情を説明しにきてくれていた。
「光秀さんが投獄されたって…どうして!?一体、何があったって言うの??」
「襲撃を指揮した真木島秀光が、光秀様が手引きをしたと、その場で自白したのです。真木島が捕縛されたと聞きつけた光秀様は、ご自分で城へお越しになりました」
(自分から………?)
光秀さん拘束の場に居合わせた三成くんは、硬い表情で、私に何があったかを話して聞かせてくれた。
真木島たちの一団を全員捕縛し城に戻った秀吉さんは、光秀さんの元へ向かおうとしていたらしい。三成くんや他の織田軍の家臣らも秀吉さんに同行しようと城門に集まっていた。
するとそこへ、当の光秀さんが、一人で歩いてきたそうだ。
「光秀様っ!」
「真木島殿が捕まったと聞いてな。どうやら、俺もとうとう年貢の納め時のようだ」
「なっ、お前っ……!」
「ということはやはり、貴様、謀反を……っ」
「真木島の証言もある。言い逃れは出来んぞ!」
秀吉たちの周りの家臣たちが、口々に光秀を責め立てる。
「そう思って、自ら囚われに来た」
「何だと……?」
「煮るなり焼くなり好きにしろ」
「光秀っ、てめぇ…はいそうですか、なんて言うわけねえだろう」
飄々と笑う光秀さんの胸倉を秀吉さんが掴み上げ、その場が騒然となったという。
「秀吉様っ、落ち着いて下さい」
「どういうことか、俺にちゃんと話せ!」
「ふっ…こうなった今、この場で話すことなどあるか?」
「ある。俺は、お前が真実を告げるまで離さねえ」