第15章 発熱
「………………」
言われた意味を理解するのに数秒かかり、理解した後は、思わずその行為を想像してしまい、恥ずかしさで顔が朱に染まる。
「っ、口移しって……」
「……嫌ならいい。俺は薬湯は飲まん。
下げよ」
信長様の口からは相変わらず強がりな言葉しか出ないけど、気怠そうに茶碗を押し返す姿は本当に辛そうだ。
意を決して、茶碗に口を付け、薬湯をひと口含むとゆっくりと信長様に顔を近づける。
そっと唇を合わせると、信長様の熱で熱くなった唇が僅かに開かれたので薬湯をゆっくりと流し入れた。
コクンという音とともに信長様の喉が上下したのを感じて、そっと唇を離す。
「くっ、苦いな」
顔を顰めて薬湯の苦味に文句を言う姿が、何だか可愛い。
確かに、家康の作る薬湯はよく効くけど、いつもとてつもなく苦い。
(お薬が苦いのが苦手だったからあんなに嫌がってらしたのかな…信長様、可愛い)
思わず頬が緩む私を訝しげに見ながら、威厳たっぷりの声で命じる。
「…全部飲むのであろう、続けよ」
数回に分けて私の口移しで全て飲み干した信長様は苦虫を噛み潰したような表情だった。
徐に、文机の上に置いてあった金平糖の小瓶から、一粒摘むと無造作に口に入れる。
「口直しだ。貴様も苦かっただろう?」
そう言うと私の頭を引き寄せ、唇を合わせる。
重なった唇の間から、コロンと金平糖が転がってきて口の中にふわりとした甘さが広がる。
少し舌の上で転がしてから、また信長様の口の中へと戻す。
何度か繰り返すうちに金平糖が溶けてなくなっていったが、信長様は唇を離そうとはせず、より深く貪るような口づけに変わる。
「っ、ふぁ、あ…」
金平糖の甘美なやり取りに酔いしれて口の端から吐息が漏れる。
「ふっ、金平糖だけでは足りんな。もっと貴様を寄越せ」