第15章 発熱
天主を出ると、廊下で行ったり来たりしながら私を待っていた秀吉さんが駆け寄ってくる。
「朱里、どうだった?
御館様は、休んで下さったか??」
「…っ、それが…」
信長様の頑な態度に二人して頭を悩ませる。
「なんとかお薬だけでも、飲んでくださるようにお願いしてみるよ。家康に、お薬作ってもらってくる!」
「ああ、頼む。御館様もお前の頼みなら聞いてくださるかもしれないし、な」
家康に作ってもらった薬湯を持って、再び天主へとむかう。
(これだけは絶対に飲んで貰わなくちゃ!)
「信長様、朱里です。入りますっ。」
気合を入れて声を掛け、襖を開ける。中を見ると、脇息に身体を預け、目を閉じて苦しそうに息をする信長様の姿があった。
(っ、さっきより辛そうになってる…)
「信長様っ、大丈夫ですか??」
慌てて側に駆け寄って、その背をさすりながら声を掛ける。
「くっ、朱里、何の用だ。下がっておれ、と言ったであろうが」
「…家康に薬湯を作って貰いました。
せめてこれだけでも、飲んでくださいっ!」
「…いらん」
差し出した茶碗を、中身を見ることなく突き返されるが、ここで諦めるわけにはいかない。
「飲めば少しは楽になりますよ…さあ」
「いらんと言っておる」
(もうっ!見るからに息が上がってるのに、なんでそこまで…)
「信長様っ!一口だけでも…お願いしますっ」
頭を下げて懇願する私に、ふぅーっと大きな溜め息が聞こえる。
「…………なら飲んでもいい」
長い長い沈黙のあと、告げられた言葉に思わず顔を上げる。
「はい?」
「……だから…貴様の口移しなら、飲んでやってもよい」