第85章 黒い影
あからさまに嬉しそうな顔をなさる信長様を見て、愛しさが込み上げる。
(本当になんて可愛い人なんだろう。可愛くて、困った人…)
武骨で大きな手に私からそっと触れると、きゅっと握り返されて、そのまま腕を引かれた。
「あっ……」
気付いた時には、私の身体は信長様の逞しい腕の中だった。
「朱里…」
「信長様…」
背中からすっぽりと包み込まれるように抱き締められて、膨らんだお腹の上に手を添えられる。
愛おしげにお腹を撫でる信長様の手は、温かくて私を安心させてくれる。
「信長様…色々心配かけてごめんなさい」
「ん……」
たくさん心配かけてしまったけど、こうして信長様のお傍にいられて、今、私は幸せだ。
たとえ、あと数月触れ合えなくても……
ーちゅううぅ……
(えっ…ええぇっ!?)
「やっ、ゃん…の、信長さまっ…つっ、吸っちゃ、だめっ…」
首筋に熱く吸い付く唇の感触に、身体がふるりと震える。
久しぶりに与えられる甘い抱擁に、隠れていた欲がズクズクと疼き始める。
「くっ…朱里っ…少しだけだ、少しだけ寄越せっ」
「んんっ…あっ、あぁ…」
尖らせた舌先で首筋をツーっと舐め上げて、耳朶を柔らかく甘噛みすると、耳の裏へ舌を這わせてチロチロと舐める。
その場で深く息を吸うと、匂い立つような色香を感じて、頭がクラクラした。
久しぶりに朱里の身体を胸に抱いた瞬間から、己の理性は呆気なく崩壊しかけている。
『指一本触れぬ』などと、どの口が言ったのやら……
気が付いたら、己の口は目の前の艶めかしいうなじに吸い付いていた。
自制せねば、と思う心とは裏腹に、朱里の白いうなじを貪るように強く吸い上げる。
己の腕の中で、はぁ…っと艶っぽい喘ぎを漏らす姿に、益々激しく欲が掻き立てられ、更に強く吸い付いてしまう。
『少しだけ』などと言いながら、散々に貪った後でようやく唇を離すと、白く華奢な首筋には紅い華が咲き乱れていた。
それがまた、ひどく官能的で……俺の心は乱れっぱなしだった。
ーポコッ!
「っ…くっ……」
甘い口づけの余韻に浸っていた俺を現実に引き戻すかの如く、グニャリと外側からでも分かるぐらいに腹の中の子が動き、いきなり俺の手の平を強く蹴った。