第84章 星に願いを
「っ…ごめんなさいっ…私っ…」
信長様の優しさに、堪えてきたものが脆くも崩れ去り、弱音が次々と口から零れ落ちる。
信長様の温かな体温を感じて、じわっと目頭が熱くなる。
(っ…泣いちゃダメだ。この子のこと、諦めた訳じゃないんだから…大丈夫だって信じてあげなくちゃ…この子は信長様の御子だもの、きっと大丈夫…)
「朱里、俺には医学の知識がないから、子が今、どのような状態かは分からん。だが、この先何があろうとも、俺は貴様を支える。
起きてしまったことを悔やんでも、時間は元には戻らん。
案ずるな、大丈夫だ。俺と貴様の子だぞ?簡単にどうにかなるはずがあるまい?」
自信に満ち溢れた信長様の笑顔は、眩しくて、暗く落ち込んだ私の心に一筋の光を差す。
自分の不注意を何度も責めた。
ああすればよかった、あんなことしなければよかった、と昨日から寝ても覚めても後悔ばかりだった。
過ぎたことを悔やんでもどうにもならないと分かってはいたが、それでも思わずにはいられなかったのだ。
悪い想像に苛まれて、心がどんどん闇に堕ちていくようだった。
信長様は、いつだって私を明るい光の方へと導いてくれる方だ。
その揺るぎない自信と確固たる意思の力で、道無き道を切り拓き、先へ先へと進んで来られた方だ。
そんな信長様と、共に生きていきたいと、ずっとそう願ってきた。
それが、私の願いだった。
「信長様、この短冊……」
笹の葉にそっと手を伸ばし、寄り添う二枚の短冊に触れながら、信長様を見つめる。
「これは貴様の短冊だな。こっちは……俺が書いた」
紫色の短冊を指先で弄びながら、ふっと口元を緩める。
「っ…どうして?書かない、って仰ってたのに……書いて下さったのですね」
「……貴様の喜ぶ顔が見たかった」
「えっ?」
「このような願い事など、自分で叶えるつもりだったが……他愛ない遊びでも、貴様が喜ぶなら書いてもいいかと、そう思ったのだ」
「信長さまっ…」
(なんて優しい方なんだろう…私の為に、だなんて。貴方は一体、私にどれだけのものを与えて下さるんだろうか……)
信長様の、私へ向けられる深い愛情を感じて、切なくて胸がいっぱいになった。