第84章 星に願いを
「……見てもいい、ですか?」
「ああ…貴様のも見せろ」
信長は、悪戯っぽく口の端を上げて、子供のような無邪気な笑顔を見せる。
そんな信長を見て、朱里もまた、いつの間にか子供のように浮き立つ気持ちになっていた。
互いにそれぞれの短冊を手に取って、示し合わせたかのように同時に表側を向けた。
「っ………」
「あっ……」
二人同時に、息を飲み、言葉を詰まらせる。
『この命尽きる時まで、朱里と共に。 信長』
『信長様と一生添い遂げられますように。 朱里』
暫くの間、互いに無言で、手にした短冊を見つめていた二人だったが、やがて顔を見合わせて笑みが溢れる。
「ふっ…ははっ…想うことは同じであったな」
「ふふ…そうですね。色々悩んだけど…やっぱり私の一番の願いは信長様のお傍にいることですから…」
「ん…俺も同じだ。だが今は……もう一つ、願いが増えた」
「え?」
信長様はふわりと優しく微笑むと、私のお腹の上に手を置いてゆっくりと撫でる。
何度も何度も……それはとても慈愛に満ちた仕草だった。
「『この子が無事に産まれてくるように』それが、俺と貴様のもう一つの願いだな」
「…は、はいっ…信長様っ…あっ、でも、二つも願っていいんでしょうか??」
「天帝すら恐れん俺の願いだ。二つぐらい、どうということはあるまい」
神をも畏れぬ不遜さでニヤリと不敵に笑いながらも、私のお腹を撫でる手はどこまでも優しかった。
私もまた、その大きくて暖かな手に自らの手を重ね合わせる。
(二人でこの子を守る。信長様が傍にいてくだされば…もう怖くない)
「…朱里、愛してる」
「んっ…ふっ…あ…」
甘やかな声で愛の言葉を囁きながら、ゆっくりと重ねられる柔らかな唇の感触に酔いしれる。
気遣うように、重ねては離れ、離れては重なり、と繰り返すたびに信長様の深い愛が、私の身体に注がれていくようだった。
冷えた身体が、信長様の与えてくれる熱によって、ゆっくりと暖まっていった。
「んっ…あぁ…信長様っ…」
「朱里…今はゆっくり休め。今宵は傍にいる、ずっと一緒だ」
その夜、信長は天主へは戻らずに、眠る朱里の傍に朝まで寄り添い続けた。