第84章 星に願いを
私を抱いて部屋へ入ってきた信長様を見て、千代はひどく驚いていた。
「ま、まぁ、姫様っ…どうなされたのです??」
「千代、すぐに褥の用意をしろ。今日は一日、朱里に無理をさせるな」
「は、はいっ!あ、あの…一体何が…」
訳が分からぬまま、私と信長様を交互に見遣りながらも、千代は命じられたとおり、あたふたと寝所へと向かう。
「っ…千代っ…ごめんね。信長様…ごめんなさい」
「よい。もし具合が悪くなるようなら、すぐに言え」
信長様の優しさに潤みそうになる私の目蓋に軽く口づけると、敷かれたばかりの褥の上に、そおっと寝かせてくれる。
「信長様っ、あのっ……」
ちゃんと言わなくちゃ、と横になったばかりの身を起こしかける私を制して、お腹を撫でてくれる信長様。
「悪いが、政務があるゆえ、一緒にいてやれん。また夜にな……」
すまなそうにそう言うと、もう一度、今度は唇に触れるだけの軽い口づけを落とす。
すぐに離れてしまった唇を名残惜しく思いながら、部屋を出ていく信長様の後姿を、私は黙って見送るしかなかった。
(ごめんなさいっ…信長様)
「姫様、大丈夫ですか?一応、家康様に診て頂きましょうか?」
千代が帯を緩めてくれながら、心配そうに聞いてくれる。
「大丈夫よ、痛いところはないし…私の不注意で信長様をあんなに心配させてしまって……この上、家康にまで迷惑かけられないよ」
「姫様っ……」
目に見えるような怪我はなかったし、動いても大丈夫な気もするのだが、皆にこれ以上余計な心配をかけてはいけないという思いもあり、暫く横になっていることにした。
横になって目を閉じていると、やはり眠気に襲われるようで…自然と目蓋が下がり、いつの間にか、うつらうつらとしていたようだ。
「んっ……」
寝返りを打ち、横向きになろうとした、その瞬間だった。
お腹の奥にツキッとした鋭い痛みを感じ、思わず息が詰まった。
「っ…やっ、痛っ…」
すぐに治るかと思い、息を詰めて身体を丸めていたが、キリキリと針を刺されるような痛みは止むことなく、痛みのせいで額には脂汗が浮き、次第に気分も悪くなってきていた。
(やっ…痛い痛いっ…急に何で…)
「っ…くっ……」
起き上がろうと褥に手を付いたが、思った以上に腕に力が入らず、ガクンと身体が褥に沈む。