第84章 星に願いを
ひどく焦ったような信長様の声
常に冷静で声を荒げられることも少ないあの方の、初めて聞くような切羽詰まったような声
聞こえるはずのない信長様の声を聞きながら、私は自分の身体が傾いていくのを、成す術もなく甘受していた。
地面に落ちる衝撃を覚悟しつつも、お腹の子だけは何とか守りたくて、無意識に身体を丸めて両腕でお腹を覆った。
(あぁ…だめっ…もう…)
ードンッ!
(っ…痛っ………くない…?あれ?)
「くっ……うっ…」
ドンっという大きな音に、衝撃と痛みを覚悟した私だったが、予想に反して身体に痛みは感じなかった。
地面に落ちたはずの私が感じたのは、身体を包む柔らかな感触だった。
「っ…の、信長様っ?な、何でっ…??」
私の身体を包んでいたのは、信長様の逞しい腕であり、地面に落ちるはずだった私は、信長様の身体の上に尻餅を付いていた。
信長様は私を抱き締めながらも、顔を僅かに顰めている。
「ご、ごめんなさいっ…大丈夫ですか?」
「くっ…阿呆がっ…それは俺の台詞だ」
「っ…あっ……」
「貴様、一体何をしておった?身重の身体でこんな無茶を…腹の子に大事があったらどうするつもりだっ!軽率にも程があるぞ」
「あっ…私っ…あっ…ごめん…なさ…い、うっ…」
信長様のあまりの剣幕に、動揺してしまい、上手く答えられない。
胸がギュウっと締め付けられるように苦しくなって、涙が滲んでくるのが分かった。
もう少しで取り返しがつかなくなるところだったと、今になって恐ろしさに囚われてしまい、息が上手くできなくなる。
信長様の身体に乗ってしまっている状態だというのに、そのことにすら考えが及ばないほど、私は激しく動揺していた。
「はぁ…うっ…私っ…あっ、あぁ…」
「くっ…朱里っ…落ち着け」
私を腕の中に抱きながら身を起こした信長様は、少し口調を緩めて宥めるように胸元に私の頭を掻き抱いた。
「あっ…信長さま…あぁ…」
「身体は大事ないか?どこか、打ったりしておらんか?痛いところはないか?」
大きな手が、着物の上から私のお腹を優しく撫でる。
確かめるように、何度も何度も……
「っ…だい…じょう…ぶ…痛く、ない…です」
「ん…そうか」
信長様が、ほうっと大きく息を吐くのを聞いて、私の心は再びキリキリと締め付けられるように苦しくなった。