第84章 星に願いを
人の背丈を越える高さの笹竹に、皆が自由に飾りつけができるようにと用意してあった踏み台。
高いところの笹の葉にも、この踏み台を使って万遍なく飾りつけができるのだった。
(これに乗れば、ギリギリ届きそうな感じ……)
お腹が目立ち始めてからは、転ばぬようにと日常生活にも気を配っていたし、高い所にあるものを取る時なども侍女たちが気を遣ってくれていたのだが、その時の私は、完全に目先の好奇心に囚われていたのだろう…周りが見えていなかった。
それほど高い踏み台ではないから危なくはないだろうと思い、着物の裾を持ち上げて、そっと足を乗せてみる。
両足ともに踏み台に乗って、手を伸ばしてみるも………
「ん?んーっ…あれ?」
(と、届かないっ…もうちょっとなのにっ……)
もう少し、もうあと僅か、指先ひとつのところで、目当ての短冊に手が届かないのだ。
(あとちょっと…もう少しっ……)
着物の袖が捲れて腕が露わになるのも厭わず、目一杯腕を伸ばしてみるけれど、やっぱり無理で……
(っ……もうちょっとだけ…)
踏み台の上で爪先立ちして背を伸ばし、必死で短冊に手を伸ばしていた私の足元は、不安定極まりなかった。
更には、少し膨らんだお腹のせいで身体の均衡が取り辛くなっていたことも良くなかった。
信長様がこちらに戻って来られる前に…早くしなくてはと、焦る気持ちのまま、グッと背を伸ばす。
(あと少しで…っ…届きそう…あっ!っ…きゃあ!?)
指先が短冊の端に触れた瞬間、予想外に足元がぐらついた。
しまった、と思った時には、踏み台はもうガクガクっと傾き始めていて、私の身体はグラグラと不安定に揺れていた。
(っ…落ちるっ…)
身体がふわりと宙に浮く感覚に、怖さと後悔が入り混じり、心の臓が恐ろしい速さでどくどくと脈を打った。
(あぁ…私、なんて事を……)
「っ…朱里っ…」
(信長様……?)
自らの意思とは逆にグラリと後ろへ傾く身体を、どうしようもできないまま、自分の愚かさを呪う意識の奥で、信長様の声を聞いた気がした。