第84章 星に願いを
「ま、まぁ、御館様ほどの御方は、星に願う必要などないからな」
「そりゃそうだなっ…で、秀吉は短冊に何を書いたんだ?」
「俺か?俺の願いは、御館様の望まれる世がいつまでも続き、末永くお健やかに過ごされることだ!」
秀吉が自慢げに言うのを聞いて、その場にいる全員が『予想どおりの願いだったな』と内心思ったが、それを言うとまた秀吉の話が長くなるのが目に見えていたので、皆、あえて黙っていた。
「………朱里はもう書いたんですかね?」
わいわいと騒ぐ政宗たちを横目で見ながら、家康はさり気なく信長に問いかける。
「………さぁな、願い事が一つに絞れぬ、と言うて随分悩んでおったようだがな」
ほんの一瞬だが、信長の表情が暗い色を落としたように思えた家康は、数日前に朱里と交わした会話を思い出す。
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「はい、これ、家康の分の短冊だよ」
ニッコリと笑いながら差し出されたのは、黄色の短冊。
「っ…あんた、これ、わざわざ持って来なくてもいいのに……」
「え〜、だって…わざわざ持って来ないと、家康ってば、書いてくれないでしょ?せっかくの七夕の催しだもの、皆に楽しんでもらいたくて……」
ニコニコと屈託のない笑みを浮かべて、受け取れとばかりに短冊を差し出してくる様は、純粋そのものって感じだ。
この子のそういう憎めないところは、いつまで経っても変わらない。
「それで、皆に配ってるってわけ?」
「あっ、そういう訳じゃないよ。こうやって渡すのは、家康と光秀さんにだけだよ?他の皆はもう書いてくれたから…」
「あっそ、ごめんね、手間かけて。光秀さんもか…あの人と同じっていうのは、なんか癪に障るんだけど……」
「もぅ…そんなこと言わないの」
ふふふっ…と柔らかく笑う声が耳に心地良い。
「……で、あんたはもう書いたの?」
「う〜ん、まだ……願い事が沢山あり過ぎて迷ってて……」
朱里は、眉尻を下げ悩まし気な顔をして溜め息を吐く。
「くっ…子供みたいなこと言っちゃって。ねぇ、これって、信長様にも渡したの?」
ふと気になって聞いてみる。
あの人が短冊に願い事を書いてるところなんて、想像できない。
ていうか、あの人の願い事って何?
かなり気になるんだけど………