第15章 発熱
秀吉さんに引っ張られて、慌てて天主へと上がる。
信長様の部屋の前まで来て襖の前で立ち止まり、乱れた呼吸を整える。
襖をそっと開けて、僅かに開いた隙間から中の様子を覗き見る。
中では、信長様が……
文机の前に座り、いつものように書状を読んでいるところだった。
ただ、いつもとは明らかに違う様子が……
頬は火照ったように赤くなり、目元は充血して潤んでいる。
眉間に皺を寄せ、はぁ、と悩ましげに息を吐く。
時折、苦しげに咳き込む声も、いつもより低く掠れていて艶っぽい。
こめかみを押さえて痛みに堪えるかのように目を細める姿は、色っぽくて目が離せない。
なんというか…いつも以上に色気があるけれど……
「秀吉さん…信長様、もしかして………熱がある?」
「っ、そうだよな?朱里もやっぱりそう思うよなっ」
秀吉さんが、我が意を得たり、という風にうんうん頷きながら続けて言う。
「朝、お迎えに行ったらあの様子で…でも、熱があるって絶対に認めて下さらないんだ。
あの調子で朝から政務もこなしてらっしゃるが、どう見ても辛そうなんだよ…」
「信長様が熱を出されるなんて余程のことだよね。
酷くなる前に何とか休んで頂かないと……」
ヒソヒソと襖の前で二人して話し合っていると、
「…貴様ら、そこで何をしている」
「っ、信長様。あ、あの…」
「お、御館様、やはりお加減がお悪いのでは?
朱里も心配しておりますし、今日は一日お休み下さいっ」
「…秀吉、煩い。大事ないと言っておろうが。もう下がれ」
「し、しかし…っ」
信長様に鋭い視線で睨まれて、秀吉さんは仕方なく天主を出て行く。『あとは頼む』と目線で私に訴えながら。
残った私は、信長様のお側に寄って、赤く火照ったその顔に手を伸ばし、額にそっと手を当てる。