第84章 星に願いを
「この辺りで一番良さそうなのを探してきたぞ。この大きさなら、城の者全員が短冊を飾れるだろ?おっ、それが七夕飾りか?へぇ…いろんな形のものがあるんだな」
秀吉さんが興味津々で覗き込んだ箱の中には、結華や侍女たちと一緒に作った七夕飾りが入っていた。
『吹き流し』『網飾り』『折鶴』『巾着』『くずかご』『神衣』『短冊』
七夕飾りには、全部で七つの種類があって、その一つ一つに意味があるそうだ。
色とりどりの色紙を使って、毎日少しずつ楽しんで作ってきた。
童心に帰り、あれやこれやと言い合いながら、結華と色紙を折る時間は、この上なく楽しいものだった。
懐妊してしばらくは、体調が思わしくなく、結華とゆっくり話をしたり遊んであげたりもできず、寂しい思いをさせているのではないかと心苦しく思っていたのだが、七夕の準備を通じて親子水入らずの時間が過ごせて、私は秘かに安堵していた。
「早速飾りつけるか?俺も手伝うぞ」
「ありがとう!じゃあ、結華も呼んでくるね」
秀吉さんにも手伝ってもらい、皆で飾りつけをする。
青々とした笹の葉に色とりどりの飾りがついて、それが時折、吹く風にさらさらっと揺れて音を立てるのが、耳に心地良かった。
「よし、これで全部だな…あとは…短冊か?」
秀吉さんが覗き込んだ大きめの箱の中には、五色の短冊が入っている。
五色とは赤・黒(紫)・青・白・黄のこと。
明の国に古くから伝わる『陰陽五行説』という考え方に基づいているそうだ。
「短冊は、皆が自由に書いて飾れるように、ここに置いておくの。侍女たちや下働きの者たちも自由に中庭に入って飾ってもらえるように、信長様にお許しを頂いたから。
秀吉さんたちも書いてね!」
「おぅ、じゃあ一枚貰っていくな。朱里はもう書いたのか?」
「ん…まだ。何だか迷っちゃって…私、欲張りなのかな、お願い事がいっぱいありすぎて決められなくて…」
「いいんじゃないか?そうやって考える時間も、また楽しいもんだ」
「ふふ…そうだねっ!」
七夕の当日は、中庭が見えるように大広間を開放して、笹飾りを見ながらの宴をする予定だ。
七夕ならではの料理も、政宗が色々と考えてくれているらしい。
(梅雨時で毎日不安定な天候だけど、この日だけは晴れるといいな。天の川を渡って逢瀬をする織姫と彦星のためにも……)