第83章 心とカラダ
「くくっ…冗談だ。熱くなるな、秀吉」
「お前なぁ…と、とにかく、お前は、今は天主に行くな!」
「ん?」
大量の報告書を抱えたまま、必死の形相で、行く手を阻もうとする秀吉に、光秀は眉を顰める。
「ほぅ…何故だ?俺が行くと、まずいことでもあるのか?」
「っ…それは…」
言葉に詰まり困惑する秀吉を、光秀が更に追及しようとしていたその時、二人の背後から新たな人物の声がかかる。
「おっ、秀吉と光秀じゃねぇか…こんなとこで何してんだ?」
「政宗っ…」
振り向いた先には、ホカホカと温かそうな湯気の立つ朝餉の膳を持った政宗がいた。
「政宗、それは……」
「おぅ、信長様と朱里の分の朝餉だ。今朝は急に軍議が中止になって、天主で朝餉を摂られると聞いたんでな、朝のご挨拶がてら俺が持って行こうと思ってよ」
「っ……」
(どいつもこいつも…御館様に朝のご挨拶とは殊勝なる振る舞いだが…くっ…今朝に限って何でこんなことに……)
秀吉が苦々しい思いで、心の中で嘆いていると、追い打ちをかけるかのように、穏やかで平和そうな声が聞こえてきた。
「おや、皆様お揃いで…おはようございます。このような早い時刻から、皆様、天主へ行かれるのですか?」
「三成っ…」
ニコニコと天使のような微笑みを浮かべて、廊下をゆったりと歩いてくるのは三成だった。
何やら両手に分厚い書物を数冊持っている。
「三成、お前にまでこんなところで会うなんて…何してるんだ?」
「私は、信長様に持ってくるよう命じられていた戦術書をお届けにあがるところです。今朝は急に軍議が中止になってお渡しできませんでしたので…朝のご挨拶がてら、朱里様のお顔も見たかったですし」
(三成っ…お前もか!頼むっ、空気読んでくれ!)
心の中で毒づきながらも、屈託のない笑顔を振りまく三成を怒る気にもなれない。
(なんて朝なんだ……いや、しかし…御館様をお守りできるのは、この俺、豊臣秀吉だけだ!御館様のご名誉のためにも、ここは何としてでも乗り切らねばっ…)
「政宗っ…朝餉は俺が持っていく。三成っ…戦術書は俺が御館様にお渡ししておくから、預かっておく。光秀は…報告は明日の軍議の席でやれ。皆の前でな」
「「「…………………」」」
早口で一気に捲し立てる俺を、三人とも呆気に取られたように見ている。