第83章 心とカラダ
夜明け前のまだ早い時刻、薄闇の中でふと目が覚めた私は、しんっと静まり返った寝所の天井をぼんやりと見つめていた。
寝起きの頭は、ひどく思考が緩やかで、油断をすると再び睡魔に襲われそうになった私は、意識的にパチパチと瞬きを繰り返す。
(んっ…もう朝なんだ。静かだな…今朝は、雨じゃないのかしら…)
梅雨時は朝から雨なことも多くて、連日雨降りが続くと、何となく部屋の中もじっとりとした湿気を感じて気持ちが萎えてしまうのだが、今朝はそれほどでもないようだった。
寝台の上で、そっと身動ぎ、隣に眠る人の方へと向き直る。
すうすう、と規則正しい寝息が聞こえる。
幼い子供のような無防備な寝顔に、思わず口元が緩んでしまう。
(っ…可愛いっ…信長様の寝顔はいつ見ても飽きないな)
出逢ったばかりの頃は、夜もほとんど眠らない人だったから、その寝顔を見るのは貴重なことだったのだけれど、最近は寝付きも良くなられて、朝までぐっすり、なんて日もあるから、私が先に目覚める朝も多いのだった。
(うふふ…今朝はついてたなぁ…はぁ…色っぽい唇……口付けしたいな…)
無防備で可愛らしい寝顔なのに、少し開いた唇から漏れる吐息が妙に色っぽくて…昨夜の女同士の交わりの熱がまだ燻っているみたいに熱い。
(ちょっと触れるぐらいなら…いいかな…)
音を立てないように慎重に上体を起こして、眠る信長様の唇にチュッと軽く自分の唇を合わせた。
その瞬間………パチっと音がするみたいに信長様の目蓋が開く。
「わぁっ!っ…ひゃっ、んんっ…!」
グッと強い力で後頭部を押さえられて、声を上げる間もなく唇が深く重なる。
ーちゅっ…ちゅううぅーっ……
「んっっ…はっ、うぅ…やっ…」
いきなりで目を閉じそびれた私に、艶を帯びた深紅の瞳が間近に迫る。
(あ………どうしよう……目、逸らせない…)
獰猛な獣に喰い尽くされる獲物のように、身動き一つ出来ないで、性急に与えられる熱に流される。
爽やかな朝の目覚めに似つかわしくない、噛み付くような濃厚な口付けに、思考がついていかない。
「んんっ、っ、はぁ…やっ…待って…」
息を吸うために唇が少しだけ離れた隙に、静止の声を上げた私を無視するかのように、熱く濡れた唇に再び声を奪われる。
ーちゅうぅ…れろっ…れろっ…ぬるっ…
(っ…あ…んっ…舌が…)