第83章 心とカラダ
いくつかの新しい店を視察し終わった後、茶屋で休憩することにする。
「はあぁ…」
「疲れたか?」
「いえ、大丈夫です!久しぶりの城下だから愉しくて…新しいお店の方も良い人ばかりでよかったですね!」
黒蜜のたっぷりかかったお団子を頬張りながら信長様を見ると、優雅な所作でお茶を飲んでおられる。
茶碗を持つ手は、ほっそりと美しく、指先まで綺麗だ。
(うっ…お茶を飲む姿も色っぽいな…)
団子を頬張る自分が子供っぽく感じられて、何だか急に恥ずかしくなってしまう。
「…………朱里」
「っ…えっ?」
スッと伸びてきた細い指が、輪郭をなぞるように唇の上を滑っていく。
指先が辿っていった跡が、じんわりと熱くなる。
「っ…あっ…吉乃、さま…?」
「ふふっ…蜜が付いてた」
赤い舌が、見せつけるように蜜を拭った指先をペロリと舐めている。
「……甘い」
「やだっ…もぅ…恥ずかしい、です」
「ふっ…ほら、もっとお食べ」
団子を口許へ運んでくれながら、艶っぽい笑みを浮かべて見つめられて……ドキドキしながら口を開けた。
(何だかもう、信長様の色気がとんでもない…女として色々負けてる気がする……)
見当違いの対抗心から訳もなくモヤモヤしてしまう私を、信長様は優しい笑みで包み込んでくれる。
(信長様は、どんな時でも余裕たっぷりだな……)
信長様が突然、女性の身体になってしまって、私はもう、どうしたらいいのか分からず、戸惑うばかりだったというのに……信長様は逆に、この状況を愉しんでおられるみたいだ。
城下を歩いていても、堂々としておられて、常日頃の信長様と何ら変わらない。
それでいて、女らしい所作も見事にやってのけられるのだから、驚かされる。
(やっぱり信長様には敵わないな……)