第83章 心とカラダ
午前中の政務を終えて昼餉を済ますと、朱里と一緒に出かける準備をする。
秀吉が、自分も供をすると言い張るのを何とか宥め、それでも心配そうに後ろをついて来る秀吉を引き連れて城門前まで来ると、朱里に声をかけた。
「朱里、身体は辛くないか?腹が張るようなら、すぐ俺に言え」
「ふふ…大丈夫です。一時期よりは大分、体調も落ち着いたのですよ。たまには外に出て動いた方がいいって…家康にも許可を貰ってますから。
久しぶりに信長様と城下へ行けるので、嬉しいんです。
それより、信長様、あの…その話し方はちょっと拙いんじゃ…」
見た目は絶世の美女……なのに、話す口調は、まるっきり信長様なのだ…これじゃあ、すぐに変に思われてバレちゃう!
「………なるほど、城下ではさすがに拙いな………よし……それならば、これでどうだ?………
では、朱里様、参りましょうか?」
一瞬で口調を変えてニッコリと微笑むと、扇子で口許を覆い隠す。
その変わり身の速さに呆気に取られた私の手を引いて、信長様、もとい吉乃様は、迷いのない足取りで城下へと向かうのだった。
「今日の視察は、何か目的の場所がおありなのですか?」
城下の大通りを並んで歩きながら、問いかける。
お腹がふっくらしてきた私を気遣って下さっているのか、その歩みはゆっくりだ。
「今日は、新しく城下に開いた店の様子を、いくつか見ようと思っています。私が話すわけにはいかないから、朱里様が店の者に色々聞いてくださる?」
「うっ…は、はい…」
女言葉を違和感なく話す信長様に戸惑いながら、周りの視線が気になってしまう。
(わっ…すごく見られてるっ!)
気がつけば、行き交う人々から好奇心いっぱいの視線を向けられていた。
「おい、あれは誰や?えらい美女やないか」
「奥方様もお美しいけど、それに勝るとも劣らんというか…色気が半端ないなぁ」
「奥方様と一緒やいうことは、もしや信長様の新しいご側室か?」
「き、吉乃様っ…何だかすごく噂になってますよ!?」
「くくっ…面白いな」
愉しそうに口の端を上げて笑みながら、私の手をきゅっと握ってくれる。
ハッとして顔を見ると、優しく慈しむような笑顔が返ってきて…鼓動がどうしようもなく速くなってしまった。