第83章 心とカラダ
事の発端は昨日の夜のこと
「家康、いるか?俺だ」
家康の自室の前で声をかけると、返事を待たずに襖を開けた。
「信長様?相変わらず、いきなりですね…何ですか?珍しいですね、あんたが直接来るなんて…」
薬を調合していた手を止めて入り口を見ると、信長は既に室内に入ってきており、家康の前にどかっと腰を下ろした。
「貴様の部屋は、相変わらず薬だらけだな。よくもこんなに集めたものだ」
部屋の中を見回しながら感心したように言う信長をチラリと見てから、家康はまた手元の作業を再開する。
「趣味みたいなもんなんで……それより何なんですか?こんな夜に無駄話、しに来たわけじゃないでしょう?」
「………ん、実は、最近、夜の疲れが取れん」
「は?」
「以前なら一晩に二度、三度、と際限なくできておったのだが…最近は毎晩だと疲れる…」
「ちょ、ちょっとっ…いきなり何言い出すんですか?はぁ…何かと思えば、そんな相談かよ……俺を何だと思ってるんだよ…大体、毎晩やらなくてもいいでしょ?今、朱里は懐妊中なんですから…少しは控えて下さいよ?」
いきなりの信長の赤裸々な相談に、家康は顔を赤くして慌てる。
長い付き合いで気心も知れているが、昔から兄のように接してくる信長から、こんな風な話題を振られたことはなかったので、正直焦ってしまう。
(これ、本気の相談なのか?この人、また俺を揶揄って遊んでるんじゃ……)
昔からよく、信長は家康を揶揄って遊んでいた。
それこそ、信長が元服したての頃などは、俺を子供扱いして、女と絡むところなどを見せつけられたりもしたものだ。
大人になり、揺るぎない威厳と存在感溢れる天下人となっても、意地悪で悪戯好きなところは変わっていない、と家康は思っている。
疑わしい目で不審そうに見つめる家康にはお構いなしに、信長の態度は飄々としている。
「……分かっておる。少しは…控えておる。が、スッキリせん」
「それは…欲求不満だ、っていう相談ですか?もう…勘弁して下さいよ…俺に言われても、そんなこと解決してあげられませんよ」
「欲求不満というわけではないが…疲れが取れんのだ。
で、何か、疲労を回復するようなものはないか?」
「疲労回復?……いや違うな、結局のところ、精力増強…ってことですか?はぁ……」