第5章 糖度:30%
「なんでよりにもよって今度泊まりに行こうかな、だよ!!」
その剣幕に若干驚きながらも、俺は言葉を返す。
いつものぬいぐるみに顔を突っ込んで考え事をするのは、こいつの癖の一つである。
一度こうなってしまったら思考のループに陥り、いくら必死に声をかけても声は届かないということを、俺は知っている。
「っとだよ、何考えとんじゃてめぇは」
こちらに気付いていないことが面白くて声をかけてみるものの
案の定、彼女はまだこちらの存在に気づかない。
「いや、違くて...
なにもやましいことはなくてね、逆にやましいことがないから言ってしまったというかなんというか
別に勝己のお風呂上がりのお色気むんむんをみたいとか濡れ髪を楽しみたいとかふいてあげたいとか逆に拭いてもらいたいとかドライヤーしてもらいたいとか、そういうんじゃなくて、光己ちゃんのから揚げが食べたいから.....
.?ん?そういえばなんかから揚げのにおいが....ぁ?」
必死に言い訳をはじめる茅野を、今度は静かに見つめた。
かわいい。....じゃ、ねぇ。
すると、ふと何かを感じたようで、恐る恐るといった様子でこちらを振り返った。
しかし俺は予想もしなかった言葉を聞いて耳が赤くなっているのが自分でも分かり、焦って掌からじわっと汗が染み出した。
茅野に焦りを悟られたくなくて、俺は怒鳴り声をあげる。
「〜〜〜っ、そんなに泊まりしたいんかあ?!あ?!
から揚げは持ってきちまっただろうが!!」
咄嗟に大声でキレてしまったあと、自分の今の格好をふと思い出した。
そういえば、上裸で筋トレしたまま、汗だくで出てきてしまったのだ。
(やべぇ、上裸で女子の部屋って、まずいんじゃ
クソ、どうしたら...)
チラ、と茅野の表示を確認すると
どうやらそれどころではないようだった。
俺に色々聞かれてテンパっているようで、まだ口をパクパクさせている。
俺の焦りがバレる前にさっさと逃げてやろう。
その方が、俺のためでも茅野のためでもある...はず。
そう考えた俺は、
「ッチ、今のは聞かなかったことにしてやっから
さっさとメシ食って風呂入って勉強して寝ろや!」
とよくわからない台詞を吐き捨てて部屋を出た。